隠「俺以外の人間に聞きに行ったっていいじゃねえか? 町内にも物知りはいくらでもいるだろうがよ。医者の先生でも、畳屋の爺さんでも、糊屋の婆さんでもそれなりに答えてくれると思うぞ! なぁ? いつもとちょっと違う意見が欲しくて趣向を変えてみようかな、とか思わねぇのか!?」
八「……うーん、あんまり思わないですねぇ。やっぱり隠居さんに聞いたほうがいいんじゃないかなと思います」
隠「俺なのか?」
八「はい」
隠「やっぱり俺なのか? 何がどうあっても俺か? 俺じゃなくちゃダメなのかっ!?」
八「………なんだかんだ言って、そうですね」
隠「それだ!」
八「は?」
隠「俺はチョコレートみたいなもんだ」
八「どういうことです?」
隠「チョコレートはそこまでの存在になってるってことだよ。バレンタインデー=チョコレート、な? 町内の物知り=俺……わかるか? そこに疑問を挟む余地がなくなってるくらい浸透してるってことだよ」
八「たしかに今更なんでチョコなの? って言ってる人あまりいないし、いたとしてもネットで調べて『あーそうなのか』で納得して終わりですね」
隠「だろ? 据わりがよくなった時点で勝ちなんだよ。今更バレンタインデーに都こんぶもらっても仕方ねえだろ? いーじゃねえか、チョコレートで何が悪いんだよ」
八「………ま、そうなんですけど、俺が知りたいのはその理由なんですよね」
隠「じゃ、お前は干支に猫がいない理由は何だと思う?」
八「え? 急ですね!」
隠「何だと思う?」
八「よくおとぎ話で動物たちがマラソンをしてそのゴールした順位で干支の順番が決まった……とか言いますよね。ネズミに騙されて猫が競走の日を間違えたとかなんとか……じゃなかったかな」
隠「チョコ盛られたね、ネズミに」
八「は?」
隠「アイツ(ネズミ)がバレンタインデーだからってチョコ盛ったんだよ。全員に。猫はチョコNGだかんな。だから早くも脱落だよ。犬も本来なら足は速いんだけど、どんじりから二番目だろ? 犬もチョコダメだから。悪いやつだよ、ネズミは」
八「元日に競走したって聞いてますよ。バレンタイン、まだまだ先ですよ」