落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「バレンタインデー」。
八五郎「こんちわ、隠居さんいますか? あのね、隠居さんに聞きてえことがあって来たんですよ。ねえ、隠居さんっ! ねえったらっ!」
隠居「うるせぇっ!! 今、忙しいからあとで来い!」
八「……テレビ観てるだけじゃねえですか?」
隠「テレビじゃねーよっ!……『ブギウギ』だよ!」
八「朝ドラでしょ? テレビですよ」
隠「馬鹿野郎! 『ブギウギ』は俺の中でテレビの枠を超えたんだよ! 俺の一日の楽しみであり、安らぎであり、心の支えなんだよ! テレビごときで『ブギウギ』をくくるなよ! そして貴様は俺の至福のひと時を邪魔するな!」
八「だって今流れてるの昼の再放送でしょ?」
隠「だからなんなんだよ!? 俺は一日『ブギウギ』を八回観る男だよ。早朝に昨日の録画。それからBSの7時30分からと総合の8時00分から。午前中にそのBSの録画と総合の録画を一回ずつ。昼の12時45分からの総合の再放送。その録画を夕方に一回。晩飯後にもう一回。しめて八回だ。それくらい俺は忙しいんだよっ!」
八「メチャクチャ暇じゃないですか」
隠「黙れ、朴念仁」
八「八五郎ですよ」
隠「何も知らねえな。『朴念仁』とはモノのわからんやつのことを言うんだ!」
八「ぼくねんじん? へー、なんでモノのわからないやつのことを『ぼくねんじん』て言うの?」
隠「お前の聞きたいことはそれか? それが聞きたくて私のところに来たのか?」
八「いや、違いますけど。気になったもんで」
隠「教えてやってもいいけど、質問は一日ひとつだぞ。それ教えたら今日はゲームセットだ」
八「………んー、じゃ我慢します」
隠「この涂阿玉(とあぎょく)が!」
八「なんです? 涂阿玉って?」
隠「知らないのか? 往年の女子プロゴルファーだろ! はい、ゲームセット! お帰りください」
八「ちょっと待って! 涂阿玉は知ってますよ! なんでそこで『涂阿玉』なの?って意味の質問ですからね! 今のはノーカウントでしょ!」