学校でも家庭でもトラブルが絶えない。親も、「なにやってんの!」と声を荒らげてしまうことは日常茶飯事だ(撮影/写真映像部・東川哲也)

 手がかかる幼児期、叱るべきことかどうか悩む親も多いだろう。確かに頭ごなしに叱るのはよくないが、叱ることが必要なときもある。AERA 2024年2月12日号より。

【図表】子どもへの好ましい言葉かけはこちら

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「目に入ると危ないからやめようね」

 都内で3歳男児を育てる女性(37)は、外で棒を振り回す息子に穏やかに言い聞かせた。最近読んだ育児本で、頭ごなしにダメと叱っても、怖いという感情だけが残って意味がないと知ったからだ。しかし息子に響いたかどうかは疑問だ。テーブルのコップを倒して女性の服がずぶぬれになったときも、こぼした本人は楽しそうに笑っていた。

「『床も拭かなくちゃいけないな、お母さん悲しいな』と言ってみましたが、あまり伝わっていないように感じました。外食先で騒いだときも、『ここはアリさんの声ね』と言ったけどなかなか伝わりませんでした」

 叱らない子育てを試みるが周りの目も気になる。ネット上で「叱らない系の人たちが遊戯施設で子どもを放置」という書き込みを見たからだ。

「自分もそう思われているのかもしれません。放置しているわけじゃなくて、危険がない限りは自由に遊ばせたい。他の保護者との価値観の違いはあると思います」

自分で考える機会奪う

 1歳、3歳、6歳を育てる都内の男性(34)は、「小さい子が3人もいると叱らないわけにはいかない」と話す。きょうだいげんかの仲裁も双方の言い分を聞いて話し合うどころか、「やめなさい」としか言えないこともある。

「叱らない子育てという理想は分かるけど、家事も仕事も育児も忙しい毎日。3人いると余裕がなくなかなか上手に叱れない。長男長女がバトルの時、どうやってけんかを鎮めたらいいのか」

 と頭を抱える。

 手がかかる幼児期は、叱るべきことかどうか悩む親も多い。幼児教育学が専門の千葉経済大学短期大学部、横山洋子教授はこう話す。

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