「『あのイチローももっと厳しさが必要だと言ってる。怒鳴ってもいいんだろ』と勘違いする人も多いと思うんです。そもそも私たちは『厳しさ』の意味をはき違えていないでしょうか」
日々学生と向き合う平尾さん。このところ広がる「叱りにくい空気」は実感しているという。
「私は『叱る』という行為に、『荒々しい言葉や態度』は必要ないと考えています。極端に言えば、やんわりと優しい言い方だけど『めちゃくちゃ厳しいこと言われてない?』みたいなこともありますよね。だから叱りにくい空気の中にある暴言や暴力をなくそうという流れ自体は、非常に良いことだと。ただ、若い人や子どもが成長しようとするとき、大人の『厳しさ』は絶対に必要なんです」
成長機会を奪っている
その厳しさと対峙(たいじ)し、「じゃあどうすれば」とじたばたしたり、抱えるストレスや不安と向き合わない限り、成長はできない。それなのに、私たちの「厳しさ」の固定観念は荒々しい言葉や暴力と結びついてしまっていると、平尾さんは指摘する。
「だから大人たちは『厳しさ』も手放してしまい、そのことが若い世代の成長機会を奪っている。若い人や子どもにとっての『本当の厳しさ』とは何なのか。立ち止まってしっかり考えなければ。たとえば『自由を与えて任せる』も一つの厳しさです。責任が生じるわけですから」
そして、一人で考えてきた若手に足りないところを、厳しく、きちんと指摘する。あるいは「こういう別の視点で考えてみたら」と、横に立って促すようなやり方。いまは「そんな厳しさすらも」避けられていることが問題なのだと、平尾さんは言う。
「そうなるとたしかに、酷なこと。自由を与えるなら、一人で物事を考えるという厳しさに立ち向かう若い人に『寄り添う』。そんな姿勢を持つことの大切さを意識して初めて、イチローさんの発言の真意が正しく伝わっていく気がします」
(編集部・小長光哲郎)
※AERA 2024年2月12日号より抜粋