果たして何歳まで運転できるのでしょうか(※写真はイメージです Getty Images)

 度々話題になる高齢者の運転免許返納問題。「失敗学」の研究で知られる東京大学名誉教授の畑村洋太郎氏は、二〇一九年に東京・池袋で八七歳の男性が母娘を撥ねて死なせてしまった事故をきっかけに、免許を返納したそう。しかし、家族に説得された際は渋っていたが、まさに失敗学の論理をもってして説得されたという。その経緯を畑村氏の新著『老いの失敗学 80歳からの人生をそれなりに楽しむ』(朝日新書)から、一部を抜粋・改編して紹介する。

【図】免許自主返納のチェックポイントはこちら

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致命的な失敗を避けるための決断

 じつのところそれまでは、運転免許証の返納を考えたことはありませんでした。長年運転してきたので運転技術にはそれなりに自信があり、実際、当時の免許証の色は五年間無事故・無違反のゴールドでした。一方で、世の多くの老人が人を死なせてしまう致命的な事故を起こしているのを知っていたので、自分が加害者にならないかという不安はありました。そのため以前は池袋の事故を起こした男性と同じ車種に乗っていたものの、それでは自分には不十分と思い、より安全機能の充実した車種に乗り換えていました。

 そんなこともあって、最初は家族の説得にも渋っていましたが、次第に心が動かされました。敵も然る者で、話の一つ一つに説得力があったのです。とくに見事だったのは失敗学の知見を使ってきたことで、以下のように論理的に攻めて来られると白旗を揚げざるを得ませんでした。

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畑村洋太郎

畑村洋太郎

1941年東京生まれ。東京大学工学部卒。同大学院修士課程修了。東京大学名誉教授。工学博士。専門は失敗学、創造学、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学。2001年より畑村創造工学研究所を主宰。02年にNPO法人「失敗学会」を、07年に「危険学プロジェクト」を立ち上げる。著書に『失敗学のすすめ』『創造学のすすめ』など多数。

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失敗学の知見を使った説得