「失敗学は現状認識が一番大事ですよね」

「的確な現状認識に基づき、失敗を未然に防止するのが失敗学の基本ですよね」

「再発防止の仕事に関わってきた日本航空123便の事故も福島第一原発事故も、いくつも未然に防ぐチャンスがあったのに、それが見逃されたんですよね」

「もし事故を起こしたら新聞の見出しは決まっています。『失敗学の大親分、自動車事故で大失敗』。それで失敗学の実績はすべて終わってしまいます」

 歳を取ってから瞬時の判断力や動作が鈍ってきたので、運転技術がどんどん衰えていたのは確かです。一方で、自動車の安全機能は充実しているので、ある程度は衰えをカバーできると思っていました。

 しかし、どんなに手厚く備えをしていようと必ず失敗は起こります。それは必ず「考え残し」があるからです。しかも、そういうものを原因とする失敗は、予期せぬ形で起こるので、備えがない分だけ被害が大きくなりがちです。これは失敗学の重要な知見の一つです。いくら失敗について研究してきた私でも、この理から逃れることはできません。

 運転技術が低下している中で事が起こると、自分だけでなく、相手や相手の家族、そして自分の家族も不幸の連鎖の中に巻き込むことになります。自分が世の中に広く発信してきた失敗学の考え方であらためて現状を認識させられると、さすがに抗うことはできません。最後はちょうどいい機会と考えて、運転免許証の返納を決断しました。七八歳のときのことです。

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自身の状態の把握は難しい