高齢化が進み、さまざまな問題が顕著になる日本。それぞれの問題で解決策が模索されているが、失敗学の提唱者である畑村洋太郎氏は、老化に関しては当事者の視点が不足しているという。畑村氏の新著『老いの失敗学 80歳からの人生をそれなりに楽しむ』(朝日新書)から、一部を抜粋・改編して紹介する。
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老いは失敗と似ている
老いと失敗の共通点に触れる前に、失敗に関する話を簡単にします。失敗学では失敗を、人間が関わって行う一つの行為がはじめに定めた目的を達成できないこと、と定義しています。ある目的を持って行動したものの、なんらかの原因や理由によって当初期待していた目的が達成できなかった状態、それが失敗です。
せっかくやってみたのに期待した結果が得られなかったのですから、この状態はあまりいいものではありません。実害を伴うような大きなダメージを受けることもあるし、気分は最悪です。「失敗をバネに」とか「失敗を糧に」という言葉のように、人によっては失敗を機に「なにくそ!」と奮起したりします。しかしダメージを受けた状態で、前向きな気持ちで前に進むのは簡単ではありません。実際には、「無駄なことをした」「大損をした」「悔しくて仕方ない」「不愉快極まりない」「人に知られたら恥ずかしい」などといった負の感情に苛まれて気力が奪われ、再び挑戦することをやめてしまう人が多いようです。