失敗はこのように大きな痛みを伴います。だから多くの人は「こんな嫌な思いをもうしたくない」とか「失敗のない人生を送りたい」とつい考えて、挑戦をなるべくしない、失敗の少ない無難な道を選びたがるのかもしれません。ところが、失敗はどこにでも潜んでいるので、本人は安全な道、無難な道を通っているつもりでも、避けて通ることができません。人が生きて活動しているかぎり、必ずついて回る宿命のようなものが失敗で、完全に遠ざけることはほとんど不可能なのです。
そして、この「避けて通ることができない」という点が、老いと失敗が似ている点です。老いるのは、長く生きている証で、そのこと自体は喜ばしいことです。しかし、いいことばかりでなく、病気であったり、加齢による単純な身体の機能の衰えなどから様々な問題も起こります。これまでできていたことができなくなることがふつうに起こるのですから、あまりいいものとは思えません。それらはそもそも当人が望んでいないことで、その点も失敗とよく似ています。
このように、望んでいないことが起こること、そしてそれらが避けては通ることができない点が、まさしく失敗と老いの共通点です。このように似ている点が多ければ、失敗の研究で得られた失敗学の知見を、老いの問題への対処に活かすことができるかもしれません。そう考えて我が身を振り返ってみると、意識しないうちに失敗学の知見を自分自身の問題への対処に活用していることに気付きました。それらを記述しているのが本書だと思ってください。