欧州諸国は、EVシフトを補助金などにより強力に推進してきたが、それが中国メーカーの欧州進出を助けるのは本意ではない。そこで、欧州委員会は、中国メーカーが中国政府の不当な補助金支援を受けているという疑いで昨年10月に調査を開始した。最近の報道では、数週間以内に中国メーカーに対する査察を実施するようだ。不当な補助金によりEV輸出を行っていると認定されれば、中国製EVに関税が課されることになる。その結果、欧州全体のEV価格が高止まりするため、EVシフトのスピードは若干鈍化するだろう。
欧州では、フランスとイタリアがともにアジア製EVへの補助金を止めようとしている。また、ドイツでは、コロナ対策で発行した赤字国債による資金を環境対策などに流用する措置が憲法裁判所により違憲とされたことによる財源不足で、EVへの補助金打ち切りが決まった。これはすべてのEVにとって逆風だが、結果的に、ドイツメーカーが中国メーカーに追いつくための時間的猶予を与える効果も狙ったものだと見られる。
さらに、EVシフトでは後れをとるものの中国に次ぐ世界第2位の自動車市場を有する米国でもバイデン大統領によるEV化戦略に狂いが生じている。
米国では、北米で組み立てられた特定のEV1台あたり最大7500ドルの税控除が受けられるが、米議会での予算審議が膠着していて先行きは楽観できない。11月の大統領選に向けて、バイデン大統領としては、EV優遇を声高に宣伝すると全米自動車労組の支持を失う可能性があり、そのトーンは抑え気味になっている。すでにトランプ効果が表れているのだ。
脱炭素への懐疑的な見方も地域によっては若干強まっているようにも見受けられ、EVブームは踊り場に差し掛かったと見る向きもある。
このように、欧米中では、EV普及ブームに少し翳りが出ているのだが、それに加えて、トランプ氏が大統領になれば、その傾向はさらに強まる可能性は高い。