昔、ラグビーは人気があった。成人の日、日本選手権に白いファーストールを巻いた振り袖のギャルが彼氏とともに詰めかけて国立競技場が満員、人気チーム(早稲田か明治、まれに同志社。社会人は蚊帳の外)のレギュラーは芸能人並みにキャーキャー言われたもんだ。競技として相当面白いと思うんだがなあ、ラグビーフットボール。しかし今、やる競技としても見る競技としても、ラグビーはサッカーに負けてしまっている。
 そんな時に読んでみるといろいろ思うことの多いこの本。スタンドオフ。そうだ、早稲田のスタンドオフの本城和彦(名前も芸名みたいなカッコよさ)が前髪なびかせてグラウンドを走っていたのを思い出す……というような話ではなくて、ラグビーという競技における「ゲームを組み立て転がしコントロール」するスタンドオフというポジションから、日本のラグビーを振り返り、今後の展望もしようというものだ。
 日本代表のスタンドオフ経験者(つまり名選手)のプレイを振り返り、彼らの声を聞き、それがどんな意味があったのかを浮かび上がらせる。しかし、当時の監督の戦術について訊かれた廣瀬佳司が「そういう議論は結果論なんですよ」と言っていて、なかなか冷静でいいと思った。戦史戦術の研究は大事だけど、分析と、コトが終わったあとの駄ボラはきちんと峻別せねばならぬ。本書のスタンドオフたちはあまり駄ボラも吹きまくらないし、聞き手(=書き手)も、W杯南ア大会で大敗した時の小藪修監督への怒り以外は概ね淡々と事実を書いている。それによれば、今のラグビー日本代表は「最強メンバー」らしい。W杯日本開催を控えて期待していいのでしょうか。でも日本の活路って「展開・接近・連続」って、結局はソレなのか。何か、往年の早明戦の、早稲田応援席の異様な盛り上がりを思い出すので、個人的には微妙な気持ち。でもジャパンがいいラグビーするならいいか。

週刊朝日 2015年8月14日号