中関白家一族との“はばかり”関係は、伊周の弟隆家についても同様だった。隆家は「刀伊入寇」にさいし、率先して戦った豪胆な貴族であり、『大鏡』(道長の栄華を史実性を加味して描いた歴史物語)が語る場面でもわかるように、道長も気難しい隆家を苦手とした。

 隆家が道長の土御門邸に招かれたことがあった。寛弘元年(一〇〇四)あたりのことだ。宴の最中、ホスト役の道長は無礼講でくつろぐことを伝えた。厳格な態度を崩そうとしない隆家に一族の公信(藤原師輔の孫で、為光の子)が装束の紐を解かれそうになり、立腹する場面があった。「隆家は不運なることこそあれ、そこたちにかやうにせらるべき身にもあらず」(不運なことが重なった自分だが、お前たちにそんな振舞いをしてもらう立場じゃない)と言い放ち、場が白けたという。

 そんな扱いにくい隆家にホストの道長は、気転を利かせ“まあまあ私が紐をお解きしますから”とにこやかに対応、事無きを得たとある(〈道隆伝〉)。まさに“はばかる”べき相手と意識しつつも、道長は「如才無く」行動する力量もあったようだ。このあたりに道長の真骨頂があった。

著者プロフィールを見る
関幸彦

関幸彦

●関幸彦(せき・ゆきひこ) 日本中世史の歴史学者。1952年生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科史学専攻博士課程修了。学習院大学助手、文部省初等中等教育局教科書調査官、鶴見大学文学部教授を経て、2008年に日本大学文理学部史学科教授就任。23年3月に退任。近著に『その後の鎌倉 抗心の記憶』(山川出版社、2018年)、『敗者たちの中世争乱 年号から読み解く』(吉川弘文館、2020年)、『刀伊の入寇 平安時代、最大の対外危機』(中公新書、2021年)、『奥羽武士団』(吉川弘文館、2022年)などがある。

関幸彦の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
いよいよ「Amazonプライムデー」開始!おすすめ商品やセールで得するために知っておきたいこと一挙紹介