体の酸化を抑えるのに欠かせない亜鉛

 亜鉛は、細胞分裂するときに欠かすことのできないミネラルであるだけでなく、体内で200種類以上の酵素に関与して、さまざまな代謝を行っています。私たちが摂取したたんぱく質やアルコールを代謝できるのも、亜鉛の働きがあるからです。

 また、亜鉛はSODという抗酸化酵素の必須構成成分として、細胞を酸化ストレスから守る錆び止めのはたらきをしています。さらに、DNAやたんぱく質の合成、性ホルモンの分泌、免疫力のコントロール、視力や聴力、味覚の維持などさまざまな体の働きに関与する極めて重要な栄養素です。水銀などの有害金属を体外へ排泄する働きもあります。

 細胞の活動の根幹に関わっている亜鉛が不足すれば、DNAレベルで問題が起き、全身に影響が及びます。当然、免疫機能の維持にも関わりますので、亜鉛不足になると、粘膜の防御機能が衰え、細菌やウイルスなどの病原体が侵入しやすくなってしまいます。

 この亜鉛は、加齢に伴って胃腸からの吸収が低下するため、体内の亜鉛の総量が減少し、特に70歳以上の高齢者では亜鉛が不足する傾向があります。にもかかわらず、現状では摂取量も加齢とともに減少しており、不足している人が多いのです。これは大きな問題だと思います。

 また、亜鉛は吸収不全(入ってくる分が不足)でも、排泄過剰(出ていってしまう分が多い)でも、不足してしまうことに注意してください。血圧の薬などが影響して亜鉛が吸収されにくくなることもありますし、糖尿病や肝臓・腎臓の機能不全、アルコールの代謝などでも排泄過剰になります。飲酒量が多ければ代謝のためにそのぶん亜鉛が使われてしまいますので、特にお酒を飲む機会が多い人は亜鉛不足になりやすい傾向があります。

 高齢者で頻発する亜鉛不足の症状は、皮膚の痒みや口腔粘膜の乾燥、味覚障害、さらにひどくなると舌の痛みを伴う舌痛症などがあります。

 亜鉛は牡蠣やレバー、チーズ、煮干し、ココアなどに多く含まれていますが、現代人の食生活で亜鉛の一日の摂取推奨量(成人男性なら11mg)を満たすのは極めて難しいでしょう。これらの食材を食べる機会が少ない人はサプリメントも活用して、積極的に亜鉛を摂取することをおすすめします。

(注)Holick MF. Vitamin D deficiency. N Engl J Med. 2007 Jul 19;357(3):266-81. doi: 10.1056/NEJMra070553.

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