ご近所ネットワークがうまく機能したおかげで、多江さんは大事に至る前に入院できたようだ。ただ、これで万事解決したわけではない。多江さんの骨折事案はある意味、ここからが本番なのである。

 山本多江さんは、関東大震災が起こった1923年(大正12年)生まれの100歳だ。下に2人の弟がいる、3人兄妹の長女として育った。生涯結婚することはなく、20代で行政書士の資格を取得し、長く相模原市に暮らした。

 2つ年下の長男・山本健介さん(仮名)は現在も存命だが、その下の弟は10年前に亡くなった。

 6月に多江さんが入院し、諸々の手続きを手伝ったのは遠く離れた岩手県に住む、弟の健介さんと、その娘、松本恵子(仮名)さんだった。

 松本さんは入院までの経緯を次のように語る。

「一人暮らしをしてはいるものの、叔母(多江さん)は100歳ですから、年相応に弱っていたのだと思います。数年前に自宅の近所で警察官に保護されたこともありました」

 買い物に出かけた先で、多江さんは車道に大きくはみ出して歩いているところをパトロール中の警察官に保護されたのだという。

「それ以来、私が叔母の自宅近所の民生委員の方とちょくちょく連絡をとるようになりました。“一人暮らしはそろそろ難しいんじゃない”と、言われていた矢先に、今回の骨折事故が起きたのです」(松本さん)

高齢者の骨折は認知機能の低下にもつながる

 高齢になってくると、足腰の筋力が衰え、ちょっとした段差につまずいて転ぶことが増える。膝から上の大腿骨には、腰の骨との結合部分に細くなっている場所(頸部)がある。転んで尻もちをついたときなどに、ここを骨折することが少なくない。加齢のために骨粗鬆症気味の人などは要注意だ。

 多江さんは手術後、3カ月を病院で過ごした。大腿骨頸部骨折は骨が折れたということだけでは済まない。歩けないままの状態が続けばベッドで寝ている時間が増え、床ずれ(褥瘡)などの問題も出てくる。リハビリや関節マッサージなどを行わなければ、関節が固まってしまう関節拘縮や、認知機能にも影響を与える。

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