「刺されても肩とかかな」
いくらAさんの肝が据わっていたとしても、強盗につかつかと歩み寄ってドアを閉めることに、なんの恐怖も感じなかったのだろうか。
「抵抗がなかったって言ったらバカみたいですけど、私が何かされているわけじゃなかったので、あまり怖いとは思いませんでした。それに、強盗の人たちの声とか動き、体の線から、すごく若い子だなと思ったんですよね。この子たちが銃を持っていることはきっとないし、ナイフを持っていたとしてもドンって命中させることはないだろう、刺されても肩とかかなって勝手に思っちゃって。殺すって言われたときは、声のトーンから、『すごく焦ってるんだろうな』と思いました。あとは、『もし殺されたら、今日お店開けられないな、大変だな』って」
とはいえ、「今振り返ると、危なかったなと思います」と、Aさん。そう思い直すきっかけになったのは“親の言葉”だったという。
「事件のあと、『ニュースで見たけど、強盗が入ったのってAのお店の近くじゃない? 大丈夫?』って親から連絡が来て。私は(一緒に暮らす)家族も子どももいないし、何かあっても自分一人だと思ってたんですけど、誰かに心配されるようなことだったんだなって初めて気がつきました。親には、さすがに(ドアを閉めるなど)自分がしたことは言えなかったですね」