2023年12月18日号より

 松峯院長の施設では、2剤目の服用時は日帰り入院してもらい、朝9時に服用後17時までは排出が完了するまで個室で待機してもらうという。過去50例ほどで数人だけ18時ごろまで待機時間を延長したものの、ほぼ100%の人が診療時間内に排出を完了したという。

 けれども、診療所には入院用のベッドを備えていないところも多く、入院や院内待機の条件がついたままでは、そもそもこの薬を扱えない。

 関東の診療所医師は本音を漏らす。

「かろうじて1床入院ベッドを備えていたとしても、8時間以上待機する人もいますから、1日に診られる患者さんの数は限られてしまいます」

 さらに普及を阻む大きな壁がある。それは、極端に高額な点だ。世界では中絶薬が数百円という国もある。高くても数万円が相場だ。

 ところがメフィーゴパックは、医師らへのヒアリングによると納入価格が5万円台(メーカー非公表)。「採血代や入院費を入れたら、驚くぐらい値段が高くつく」(地方病院の院長)のだという。低く抑えようとすると、負担感が増してますます導入の意欲が削がれると、関東で古くから続く医院の院長は打ち明ける。

「うちは薬での中絶は10万円にしているけれど、薬を導入したって利益にならない。診療時間内に排出されなかったら手術に切り替えるけれど、手術になった場合の追加料金は取らない。緊急の出血に備えて夜も人を配置しているが、今の条件では、とても経営を回せない。仕方なく対応しているよ」

服薬による安全な中絶が選べたら「人生違った」

 今回、記者が中絶薬を導入している全国83施設に実施状況のアンケートを依頼した。有効回答数は28。中絶薬を選択する場合の価格帯で最も多かったのが「10万~12万円」。入院費も含んでいる施設もあれば、入院費は含まず、時間内に胎嚢が排出されず手術に切り替えた場合の手術費を別途徴収する、という施設もあった。次に多い価格帯が、「16万~18万円」。こちらはもともと夜間緊急診療にも対応している大病院が多く、入院費用も含まれていた。

 興味深いのが、導入施設が採用している手術法。WHOが推奨する吸引法、なかでも体を傷つけないよう柔らかいチューブを使う「手動真空吸引法(MVA)」を採用している施設が主流だった。国際的に求められているのは、掻爬法を安全な方法へ切り替えることだが、残念ながら、中絶薬への代替は今のところ加速していないようだ。

 そもそも日本では、MVAを使った手術自体が現状では高い。回答からは、MVAによる手術は「12万~15万円」で設定しているところが多いこともわかった。薬を奨励したい施設では、MVAよりも少し薬による中絶の価格を下げていた。また、あまり積極的ではない意見を持つ施設は、逆に薬の方をわずかに高い金額に設定していた。

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