日本で承認された「メフィーゴパック」は2種類の薬剤を飲み込むのが特徴。最初に妊娠の継続を終わらせる薬を服用し、その36~48時間後に子宮の収縮を促す薬を口の中に含む。すると、子宮の内容物とともに胎嚢が排出される。1剤目は65カ国、2剤目は90カ国以上で承認されている(写真:ラインファーマ提供)
この記事の写真をすべて見る

 従来の外科的な手術ではなく、飲んで人工妊娠中絶を行う薬が今年4月に承認された。先進国のなかで最も遅かった。現在、取り扱う医療機関は2%未満。しかも高額でアクセスはまだ厳しく制限されている。その背景を追った。AERA 2023年12月18日号より。

【県内で何ヶ所?】日本で経口中絶薬について相談ができる医療機関

*  *  *

 普及率2%未満──。

 世界では安全な方法として普及している「経口中絶薬」がG7で承認されていない国は、つい最近まで日本だけだった。妊娠初期に使う薬で「飲む中絶薬」と言われる。日本では、今年4月に承認された。フランスで承認されてから、35年の月日が流れていた。

 これまで、日本で実施されてきた妊娠初期の人工妊娠中絶は、全てが手術だった。特に「掻爬(そうは)法」という、金属器具で子宮の内容物を掻(か)き出す手法は、子宮に穴が開くリスクもある。世界保健機関(WHO)は母体に負担の少ない「吸引法」という、子宮の内容物を吸い出す手術か、「中絶薬」に移行するよう勧告している。

 日本では、産科医の中でも母体保護法で定められた「指定医師」のみが中絶手術を実施できる。中絶薬による中絶も同様だ。指定医師のいる医療機関は4176ある(2019年統計)が、承認された「メフィーゴパック」を製造・販売するラインファーマ(東京都港区)によると、11月27日時点で同剤を扱う医療機関は83に過ぎない。30ページの空白だらけの図は、承認から半年を経てもなお、困っている女性がほとんどアクセスできない現状を浮き彫りにしている。

「東峯ラウンジクリニック」(東京都江東区)の松峯美貴院長は言う。

「最近、静岡から数人が新幹線で訪れ、経口薬での中絶を受けました。埼玉県や茨城県からも来られます。薬を選択する人の声は、『子宮を傷つけたくない』『手術室に一人で入って足を開き、麻酔の後は何をされているかわからないのは恐怖』など、さまざまです」

 関西地方の診療所院長はこう話す。

「地方での普及が進んでおらず、遠方からの患者が多い。中絶後のフォローが不十分になる可能性がある」

 普及しない要因の一つに、承認時についた厳しい使用条件がある。厚生労働省が承認日の4月28日に出した通知には、「適切な使用体制のあり方が確立されるまでの当分の間、入院可能な有床施設(病院又は有床診療所)において使用することとする」と記載された。また、2剤目服用後に胎嚢(たいのう)が排出されるまでは「入院または院内待機を必須とする」とある。じつは海外では、自宅で服用するのが可能な国もある。

次のページ