「中絶に配偶者同意が必要なのは日本を含め11の国と地域のみ。女性に決定権もなく手法も選べないのはおかしい」(梶谷さん)(撮影/古川雅子)

「#もっと安全な中絶をアクション(ASAJ)」のメンバーの梶谷風音さん(27)は、こう指摘する。

「望まない妊娠をして困るのは女性たちです。私が昨年に実施したアンケートで『中絶を選択したかったのに手術に強い恐怖感があり、その選択が取れずに出産した』という体験がつづられていました。その方は『服薬による安全な中絶の選択があれば、人生は違いました』と悔やんでいました。薬が承認されてもその方法にたどりつけないならば、選択肢がないのと同じですよ」

安全性と妥当な価格、両立するよう国が見直しを

 主に指定医師が所属する「日本産婦人科医会(医会)」は、承認前、「発売から半年程度は入院可能な施設に限って使う。その後、状況を調査するよう厚労省に求めていく」と公言していた。承認から半年を経た今、価格を押し上げる主な要因でもある使用条件を見直すような動きはあるのだろうか。

 厚労省に問い合わせると、「医会からは特に運用を見直すような要望は来ていない。年内で運用が変わりますというような動きがあるわけではない」(医薬局医薬品審査管理課)。ただし、内閣府母子保健課が主体となり、中絶薬の実態調査はこの秋から始めていることがわかった。医会へ調査を委託し、「今年度末までに調査結果が公表される見込み」(母子保健課)とのことだ。

 手術にしろ経口薬にしろ、日本の中絶は法外に高額だ。不妊治療の経験を機に国会で中絶薬の課題を取り上げてきた、立憲民主党の塩村あやか参議院議員はこう語る。

「世界中で普及している安全な中絶薬なのに日本で承認されるのはあまりにも遅かった。その上、海外と比べものにならないぐらい高額です。海外では自宅での服用、あるいは昼間のみの診療でも滞りなく運用しているそうです。日本の課題をしっかり洗い出して、余計なところに費用をかけず、安全性と妥当な価格が両立するよう、国として運用を見直していくべきです」

「対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座・新宿」の対馬ルリ子理事長は、自身が代表理事を務める日本女性財団で、苦しむ若年女性たちを救う活動に従事している。クラウドファンディングで資金を集め、数万円単位の中絶費用の助成実績もあるという。

「女の人が国にやってほしいことは、保育だけじゃないですよ。みんなが安心して暮らせる環境をつくらないと。救済を担うのは、全国から募った応援団の『フェムシップドクターズ』。約60人の医師が手を挙げて支援につなげています。ただ、本来はフランスやイギリスのように、国が助成する方策も検討すべきです」

(ジャーナリスト・古川雅子)

AERA 2023年12月18日号

暮らしとモノ班 for promotion
なかなか始められない”英語”学習。まずは形から入るのもアリ!?