平成28年歯科疾患実態調査(厚生労働省)によれば、入れ歯を装着している人の割合は60代から徐々に増え、80代以降では約半数近くが総入れ歯です。こうした入れ歯の大きな悩みの一つが、「におい」です。また、入れ歯は毎日きれいに洗わないと細菌が繁殖しやすく、汚れた入れ歯が引き金となって誤嚥(ごえん)性肺炎が起こる危険性が高まります。このような問題の改善策として、細菌の増殖を抑える働きを備えた「静菌義歯(せいきんぎし)」が開発されました。どのようなものなのか、期待できる効果について開発者に聞きました。
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なくなった歯のかわりをしてくれる「入れ歯」。インプラントに比べ安価なのがメリットですが、「取り外すときににおいがする」「洗ってもにおいが取れない」など、においに悩む人が少なくありません。神奈川歯科大学分子生物学講座口腔細菌学分野教授の浜田信城さんは、こうした悩みの改善を目的とした入れ歯を開発しました。「静菌義歯」という名称で、歯科医師の裁量によって希望する患者に処方(自費診療)できるようになりました。
そもそも、なぜ入れ歯はにおいやすいのでしょうか。浜田さんは次のように解説します。
「入れ歯は土台部分の『床(しょう)』とそこに埋入した歯(人工歯)からできています。このうち床にはとくに食べかすがつきやすく、清掃が不十分だと、そこに口の中の細菌が集まり、増殖を始めます。この細菌が発する物質がいやなにおいの元です。床の中でもレジンと呼ばれる合成樹脂(プラスチック)で作られた『レジン床』は、目に見えない小さな穴から汚れや細菌が入り込みやすく、ここで増殖を始めると、穴の中が清潔にならない限り、においはなかなか消えません」
細菌学者の浜田さんが長年、危惧してきたのは、高齢者の多くが入れ歯を使っていることです。入れ歯は夜、寝る前に外し、ブラッシングで食べかすを落とした後、洗浄剤に入れて殺菌をするよう、歯科医院では指導しています。手順通りにおこなっていれば、においは起こりにくいのです。しかし、年を重ねADL(日常生活動作)や認知機能が落ちてくると、こうした管理が難しくなり、入れ歯の清潔が保てなくなります。