「もともとは杵(きね)と臼(うす)を作っていた企業が、カビなどを抑え、杵と臼の衛生を保つために、作った材料でした。酸化亜鉛は化粧品などに使われていて、抗菌作用があることは知っていました。すでに抗菌や防カビ材料として、市場に出ており、安全性が担保されていたこと、また、安価なことから、『これは義歯(入れ歯)に応用できるのではないか』とピンときました」(渡辺歯科医師)

NPO法人日本・アジア口腔保健支援機構(JAOS)理事長の渡辺秀司歯科医師

歯周病菌を減らす効果や口臭予防の効果を実験で確認

 この材料について浜田さんは「最初は半信半疑だった」と言います。しかし実験では驚く結果が――。細菌の含まれた液にアドックスの粉末を添加し、静菌の働きを検証しました。使用した菌は歯周病菌の中でも悪性度の高い菌の一つ、「P.g菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス菌)」、むし歯菌の代表である「ミュータンス菌」、口腔カンジダ症の原因菌である「カンジダ・アルビカンス菌」の三つです。結果、時間がたつほど菌の数が減るという結果が得られました。中でもP.g菌では数の減り方が大きかったのです。

「これは実用化できるかもしれない、と思いました。同じように静菌作用がある製品としては、『洗口剤(うがい薬)』があります。しかし、洗口剤で実験をすると、うがいをした直後は口の中の菌ががくんと減るのですが、1時間もたたないうちに、また菌が増えてきて、3時間後には元に戻ってしまうのです。この点、静菌効果のある入れ歯やマウスピースは、口の中に長時間置いておけるので、静菌状態をキープできると考えました」(浜田さん)

「AD-PSJ」は殺菌剤のように細菌の核までを破壊せず、周りにある細胞壁のみを壊すこともわかりました。また、歯周病やむし歯のない人の口の中にも多くいる、グラム陽性菌には作用しないことも明らかになりました。

「わかりやすくいうと、口の中の悪玉菌の繁殖を抑える一方、善玉菌の働きは保ってくれるという、バランスのよい静菌作用が期待できるのです」(同)

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口臭を抑える効果についても検証