「歯科医院では定期的に入れ歯のメンテナンスを受けていただき、衛生状態を確認するなど、口にフィットするように調整をしていますが、高齢の患者さんの場合、入れ歯に細菌の固まりであるプラーク(歯垢)が大量についていたり、プラークが歯石となってこびりついていたりすることが珍しくありません。これでは菌のすみかを口の中に入れているようなものです。増殖した菌が肺に入ると、命にかかわる誤嚥性肺炎を引き起こす可能性もあります」(浜田さん)
杵や臼を清潔に保つための技術を開発した企業に着目
細菌が繁殖しにくい静菌効果のある入れ歯を開発すれば、においが予防できるだけでなく、誤嚥性肺炎のリスクも抑えられると浜田さんは考えました。なお、静菌の定義は、「細菌を含む微生物の繁殖を抑える」という意味です。
「菌を制圧する作用として最も強いのが細菌を含む微生物を死滅または除去する『滅菌』、次が『殺菌』(同じく微生物を殺すことで数を減らす)です。しかし、口の中にはからだを守ってくれる、よい菌もたくさん生息しているので、滅菌や殺菌は適合しません。適度に菌の増殖を抑えるいわば『静菌』の働きを利用することが、安全面も含め、理にかなっています」(同)
実はこれまでも菌の増殖を抑えることのできる義歯をめざして、世界中で研究、開発がおこなわれていました。
「しかし、いずれもうまくいきませんでした。例えば抗菌作用のある銀をレジンに入れる方法。これは銀が高価であるため、普及しませんでした。酸化チタンも注目されましたが、光を当てないと菌の増殖を抑える効果が働かないなど、欠点がありました。また、変形しやすいものや口の中の唾液(だえき)で溶けてしまう材料も使えません。そこで注目したのがこうした欠点の少ない、『酸化亜鉛』を特殊加工した材料、アドックス社の『AD-PSJ』でした」(同)
この材料を見つけたのは、歯科の感染対策教育や歯科感染管理者検定などをおこなっている、NPO法人日本・アジア口腔保健支援機構(JAOS)理事長で、とつかグリーン歯科医院理事長の渡辺秀司歯科医師です。