「滝と虹」 イグアスの滝(ブラジル) 2007年

 海外の撮影ではレンジャーが同行したり、ガイドを雇うこともある。

「ブラジルのイグアスの滝で撮影したときは、『夜はジャガーが出る』と言われて、ピストルを持ったレンジャーが一晩中ついてくれました」

 ボリビアのウユニ塩湖ではガイドが同行した。干上がった塩湖は四国の半分ほどの広さで、見渡すかぎり真っ白な世界が続く。

「まっ平らなコンクリートのような塩の大地を夜間、車で走るのですが、何も目印がないので、ガイドがいないと無理です。遭難して、水や食料が尽きて亡くなった人もいます」

 ハワイ島のキラウエア火山から流れ出る溶岩を月光で写したときは、なかなか終わらない撮影にしびれを切らしたガイドが途中で帰ってしまった。

「溶岩が海に流れ落ちる場所まで1キロほど歩いて行って撮影したのですが、ガイドが途中でいなくなってしまった。帰りは40キロの撮影機材を1人で抱えて、でこぼこなうえに滑りやすい溶岩の上をヨタヨタと戻ってきました。来るときに振り返って、山の稜線(りょうせん)を目印にして方角を確認していたのがよかった」

 ちなみに、海外では夜間の外出が難しい場合が多く、その許可を得るための手続きが一番大変だという。

単なる夜景写真ではない

 石川さんは長年、世界中を旅するうちに、日本のように多種多様な植物が生育する環境が稀有であることに気づいた。日本の繊細な植物は月光とマッチするという。

「極端な話、サボテンよりも、日本の草花や昆虫の向こうに満天の星空を写したほうがもっと身近に、はっきりと宇宙を表現できるのでは、と思いました。それで糸島半島に移住してきたんです」

 最近は、目の前のカブトムシと遠くの星空の両方にピントを合わせて写すなど、高度な撮影技術を駆使している。

「究極の1枚を撮りたくて、いまだに試行錯誤しています」

 最近は超高感度で撮れるデジタルカメラが普及し、誰でも月光に照らされた風景を撮れるようになった。それでも石川さんの月光写真を目にした多く人の共感を覚えるのは、私たちが心に描く夜の心象風景を写しているからだろう。

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】石川賢治「宙(そら)の月光浴」
富士フイルムフォトサロン(東京・六本木) 12月1日~12月21日

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