23年6月には国会で改正入管法が成立した。「法律の成立がゴールではなく、我々には制度を適正に運用することが求められていると思います」と大江さんは話す。UNHCRとの協力覚書では、「難民認定制度の質の向上に資する施策を実施していく」と明記されている。そのために具体的になにをするかを考え、調整し、施策を実施する今の業務は、国レベルの大きな仕事であり、制度の適正な運用に資するため、やりがいがあるそうだ。
「企画・立案をする過程では、同僚と話し合って現状の問題点を洗い出し、方向性を統一していきます。周りには優秀な人が多く、そんな人たちに囲まれて自分を伸ばすことができていると感じます。ことに上司は、私が考えてもいなかったような、なるほどと思う意見を出してくださることが多く、勉強になります。読者の方の中に、入管庁に興味を持ってくださる方がいらっしゃれば、業務説明会を随時開催しておりますので、ぜひ参加していただけるとうれしいです」
法科大学院修了後には法曹以外の道も開けている
法科大学院というと、「法曹の養成所」というイメージがある。それとは違う職業を選んだ大江さんだが、「法科大学院に進学してよかった」という。
「私の場合、一橋の法科大学院に行っていなかったら、今の仕事に巡り合うことはできなかったと思います。また、行政の仕事は法令にのっとっておこなわれていますし、法令の改正業務もあるので、大学院でリーガルマインドを養ったことによりスムーズに業務に取り組むことができていると感じます」
法科大学院に進学しながら、法曹以外の道を選ぶと、お金も時間もかけたのに無駄になると思えるかもしれない。でも視野を広げてみれば、学びを生かしてもっと自分が輝ける魅力的な道が見えてくると大江さんは語る。
「法科大学院での学びをどう生かすかは人それぞれで、ほかの道に進んでも、大学院で学んだことがゼロになるわけではありません。法律家になることだけにとらわれずに、在学中からいろんな可能性を探ってみて、やっぱり法律家がいいとなったらそちらに行けばいいし、勇気を持って、違ったことに挑戦してみてもいいのではないでしょうか。私の同期にも、省庁や都庁に入った人、裁判所事務官になった人、企業の法務部に就職した人もいます。法科大学院に進むことが、いろいろなチャンスをつかむための一つのステップになるといいですね」
(取材・文/福永一彦)