日本シリーズ第4戦、サヨナラの好機に打席に立つ大山(手前)。ベンチでは阪神の選手たちが声援を送る(撮影/写真映像部・東川哲也)

大阪府警が1300人

 クリーンアップは打線の花形。しかし、そこ以外にも大きな強みがあった。日本シリーズでも、まさに日替わりでヒーローが登場し、今季の阪神を象徴するかのような戦いぶりを見せていた。1番・近本は5割近い打率をたたき出して日本シリーズMVPに輝き、中野も3割超の高打率。下位を打つ木浪は打率4割、坂本誠志郎は4打点。オリックスからすれば、怖さが途切れない脅威の打線だった。

 38年前、阪神が初めて日本一に輝いた1985年、掛布さんは不動の4番として、シーズン40本塁打。前後を打つランディ・バースと岡田彰布もそれぞれ54本塁打、35本塁打で、1番・真弓明信まで34本塁打とド派手に打ちまくっていた。対して今季の阪神は3割打者はおらず、チーム最多本塁打は佐藤輝明の24本。球速など投手のレベルが格段に上がり、近年は「投高打低」とはいえ、数字のうえでは85年と比べて寂しい数字だ。

「1年間、みんなに助けられた4番だった」。日本シリーズ優勝後の会見で、今季すべての試合で4番に座った大山悠輔はそう語った。

 甲子園での日本シリーズ第4戦、阪神は劇的なサヨナラ勝利をおさめたが、サヨナラ打を放った大山はこの打席まで15打数2安打、打点はわずかに1と、主砲の働きとは言い難かった。それでもベンチは揺らぐことなく期待し、大声で声援を送った。

 突出した選手はいなくとも、派手さはなくとも、選手それぞれが支え合い、全員でつかみ取った日本一だった。

 派手さといえば、優勝決定後の街の喧騒も85年当時から様変わりしたように映った。

 阪神優勝イコール飛び込みと、半ば儀式化してしまっている印象さえ受ける「道頓堀ダイブ」。日本一が決まった11月5日夜、大阪・ミナミの道頓堀周辺には、喜びを分かち合おうと大勢のファンが集まったが、道頓堀川にダイブしたのは37人だったという。大阪府警が1300人態勢で警戒していたこともあって大きなトラブルもなく、逮捕者も負傷者も出なかった。

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