首脳会談で岸田首相が目的としたのは、対中国包囲網形成でフィリピンの協力を得るということだった。その目玉が、沿岸監視レーダー5基6億円相当を無償で提供するというものだ。下心みえみえで、あまりにわかりやすい。
この無償供与は、「政府安全保障能力強化支援(OSA)」という新しい枠組みを使って実施される。建前上は、自由や法の支配といった価値観を共有する「同志国」の防衛力向上を目的に協力する枠組みだということになっている。
しかし、これを実態に即して言えば、日米と一緒に中国と戦ってくれそうな国を増やすために、武器などをタダで提供して取り込んでいこうという作戦に他ならない。
戦後の平和国家日本の外交政策の柱として、政府開発援助(ODA)があるが、ODAにおいては、平和主義の理念の下、非軍事的な協力しか行ってこなかった。
一方、2022年末に改定した国家安全保障戦略でその創設が謳われ、23年度から導入されたOSAは、そうした平和主義の制約を取り払い、真正面から軍事面での協力を「外交政策」の柱として前面に出すものだ。
その意味で、このOSAの創設は、これまでの日本の平和外交を根本から変質させる「異次元の外交政策」だと言っても良いだろう。
実は、こうした変質には伏線があった。ODAの当初予算は、1997年度のピーク時に1兆1687億円だったが、2023年度にはなんとほぼ半額の5709億円まで減少していたのだ。