ギリギリまで悩み手直し 「確からしい答え」考え抜く
筆者は激戦といわれた選挙の開票現場で何度も松田を目撃してきた。20年10月の富山県知事選挙、22年3月の石川県知事選挙でも松田は当選者側にいた。21年9月の自民党総裁選挙では岸田文雄陣営にいた。なぜ勝てるのか。
今年の夏、勝つ秘訣(ひけつ)を知りたいと思い、密着取材を申し込むと松田は快諾した。提案されたのは、8月6日告示、13日投開票の盛岡市長選挙だ。松田は6期目を目指す現職に「3度目の挑戦」をする新人・内舘茂(57)を支援するという。
松田が内舘陣営から依頼を受けたのは5月。支援者とはリモート会議を重ねてきた。
選挙戦1カ月前の7月16日。松田が盛岡の内舘事務所を訪れると聞き、新幹線に同乗した。
「選挙は候補者と支援者、その地域の人たちのものです。そこに呼ばれる選挙プランナーはあくまでも、よそものです。内舘さんは今回が3回目の挑戦で、支援者は『今度こそ』と燃えています」
松田はそう言ってパソコンを開くと、先に実施した情勢調査の分析レポートを仕上げにかかった。調査は固定電話とネットのハイブリッドだ。
「選挙に正解はないので、いつもギリギリまで悩んで手直しします。このへんでいいだろう、とか、手癖でやってしまうのはダメ。できるだけ『確からしい答え』を最後まで考え抜くんです」
130ページを超える調査データには、現職の支持率、新人の認知度、投票先未定者の数値などが年代や性別ごとにまとめられている。調査段階で勝っているか負けているかはそれほど重要ではなく、分析とその後の戦略が大切だという。
「数字だけ見せて分析がないと浮き足立ってしまいます。反対に、通常はボランティアさんに見せない数字をあえて見てもらって盛り上げることもあります。手応えや一緒にやっている感じが伝わると、その後の動きが変わってくるんです」
選挙プランナーとして松田が心がけていることがある。それは「絶対に法令違反者を出さない」ということだ。公職選挙法はわかりにくい法律で、新人候補や支援者は不安を抱きながら松田を頼っている。違反内容によっては「当選取り消し」もありうる。プロとして、絶対に守らなければならない。政治活動での演説も、違法な事前運動にならないよう現場で聞いて、改善点を提案する。
盛岡到着後、チームの初顔合わせに同席した。事務所のスタッフが笑顔で松田を迎える。短時間で打ち合わせを終えた松田は言った。
「もうほとんど完成されている。中心メンバーは3回目だから選挙をわかっている人たちばかりで話が早い。僕がいなくても勝てると思います」