盛岡市長選挙では、6期目をめざす現職に戦いを挑む新人・内舘茂の陣営に。初当選を見守った(撮影/門間新弥)
この記事の写真をすべて見る

 選挙プランナー、松田馨。選挙関係者に引っ張りだこの選挙プランナーがいる。松田馨は、300以上もの選挙に関わり、多数の新人候補を勝たせてきた。ギリギリまで戦況を分析し、時には斬新なアイデアで選挙を導く。候補者の人生がかかる戦いは必ず当選させなくてはいけない。当選させるためなら土下座も辞さないと熱い思いを語りながらも、いつもニコニコと笑みを絶やさない名参謀を追った。

【この記事の写真をもっと見る】

*  *  *

 選挙の現場では、稀(まれ)に奇跡が起きる。その瞬間を目撃できる人は間違いなく幸運だ。しかし、世の中には何度も奇跡を目撃してきた人がいる。その一人が選挙プランナーの松田馨(まつだかおる・43)だ。

 これまでに関わってきた選挙は300以上。現職に挑戦する無所属・新人からの依頼も積極的に引き受けることで、「初の女性首長」や「最年少首長」の誕生に立ち会ってきた。勝率は7割超。

 この数字のすごさは、統一地方選挙における「現職市長の当選率」をみれば実感できる。2015年は84%、19年は84.1%、23年は91%と、圧倒的に現職が強い。そんな中、松田は的確な情勢分析と斬新なアイデアで新人候補を次々と勝利へ導いてきた。選挙関係者で松田馨の名前を知らない人は、ほぼいない。

 松田について詳述する前に、まずは日本における「選挙プランナー」の歴史を紹介する。日本で最初にこの肩書を名乗ったのは、1989年にアスク株式会社を設立した三浦博史(72)だ。三浦はこれまで元東京都知事の石原慎太郎や北海道知事の鈴木直道など、主要な知事選挙や国政選挙で500以上の依頼を引き受けてきた。勝率は9割。誰もが認める第一人者だが、それでも三浦は「当選請負人」と呼ばれることを好まない。

「選挙プランナーはあくまでも黒子。私の勝率が高いのは、自分で『勝てる』と思った人しかやらないからです。私は自分のスタンスを保守系と決めています。もちろん私が『受かる』と思っても落ちることはある。選挙に絶対はない」

 そう語る三浦の著書『最新選挙立候補マニュアル 選挙参謀はいりません』(ビジネス社刊)には選挙プランナーの定義が書かれている。

「できる限り科学的根拠に基づいた調査・戦略・戦術をプランニングし、勝利への実行アドバイスをしていく者です」

 2006年4月、松田は三浦の著書に初めて出会った。それ以来、何度もこの本を読み、三浦を「師匠」と私淑するようになる。

次のページ