多くの人びとが行き交う渋谷のスクランブル交差点。駅周辺の景色は東京の変化の激しさを象徴するように刻々と移ろう(撮影/写真映像部・上田泰世)
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 東京では「100年に一度」と言われる再開発ラッシュが進行している。中でも渋谷駅周辺の変化は激しい。どんな街になるのか。AERA 2023年11月13日号より。

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 都内でも特に変化が激しいエリアが渋谷駅周辺だ。この10年余で渋谷ヒカリエ、渋谷ストリーム、渋谷フクラス、渋谷スクランブルスクエアなど再開発に伴う高層ビルが続々誕生。すり鉢状の地形の底にある駅周辺に立つビルを空中回廊のようにつなぐ歩道橋デッキの整備も進んでいる。

 そして今、急ピッチで姿を変えつつあるのが駅南西部の桜丘口エリアだ。複合ビル「渋谷サクラステージ」は11月30日に完成予定。商業施設などが順次オープンし、来年夏に全面開業する。国道246号に面したビルの低層壁面は桜の花びらをちりばめたようなピンクの模様で彩られ、華やかムードを盛り上げている。

「圧倒されますね。まさかこんなものが我が街にできるとは思いもよらなかった」

東松友一(とうまつ・ともいち)/1936年生まれ。武蔵野の自然の風景を撮影する写真家として活動。桜丘町会の副会長も務めている(撮影/渡辺 豪)

 小型重機やドリルの稼働音が響く完成間近の39階建てビルにレンズを向けながら、感慨深そうにつぶやくのは写真家の東松友一さん(87)だ。自宅は再開発エリアの目と鼻の先。間違いなく、渋谷駅に最も近い住民の一人だ。

「ここには床屋さんがあった。あの角には喫茶店。ラーメン屋さんや豆腐屋さんもあったな」

丘地区のさくら坂にソメイヨシノが植えられたのは1991年。その瞬間を東松友一さんが撮影した(写真:東松友一さん提供)

草野球をした遊び場が

 東松さんには生まれ育った地元の再開発前の景色が焼き付いている。

「駅の近くにしては静かなところだったよ。国道246号をはさんであっち側(道玄坂)は大都会、こっち側(桜丘)はにぎやかさから取り残されてきたんだ」

 国道246号は1964年の東京五輪の際に拡幅されるまでは車の通行量が少なく、草が生い茂る「広場」のような路面は子どもたちの格好の遊び場だった。東松さんには草野球をしたり、トンボを捕ったりした思い出がある。当時、桜丘は商店と住居が混在する平屋の密集地。渋谷が「若者の街」として脚光を浴びるようになっても、桜丘は通好みの社会人に愛される飲食店や趣味の店が軒を連ねる、どこか懐かしさの漂うエリアだった。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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