再開発ビルなどの建設が続く渋谷駅周辺。すり鉢状の地形の底にある駅周辺は歩行者がスムーズに流れるよう空中回廊の整備も進む(撮影/写真映像部・上田泰世)

混雑がパワーの源泉

 渋谷の街は再開発によってその個性も失われていくのだろうか。渋谷駅周辺の再開発に詳しい國學院大学経済学部の田原裕子教授は「再開発後も駅周辺はごちゃごちゃしていて、いつも混んでいる」のが渋谷の特徴と話す。だがそれは「渋谷のパワーの源泉」でもある、と評価する。

「ビジネス街の大手町や虎ノ門のカフェに入ると、そこで働いている人が主役という感じがして、私なんかはどうしてもアウェー感があります。でも例えば、渋谷ストリームのカフェだと、観光客も学生もビジネスパーソンもフラットに伸び伸びしている感じがしませんか? あれってまさに渋谷が体現しているダイバーシティなんだと思います」

 働いている人も、遊びに来た人も我が物顔でいられるのは「ごちゃごちゃ感」のなせる技。だがそれは再開発ビルだけで演出できるものではない。渋谷駅周辺の再開発で誕生したキラキラの高層ビルの足もとには、昔ながらの飲食店が以前と変わらず軒を連ねている。これこそが渋谷らしい街の魅力の要素だと田原教授は強調する。

「街区によって整然とエリア分けされていると、かえって落ち着かない時もあります。その点、『街に人を流すこと』を再開発の目的に掲げ、既存店舗との共存を前提にした渋谷駅周辺の再開発のスタイルは奏功していると思います」

 渋谷はかつてのような「若者」だけに象徴される街ではなくなりつつある。これからは、国内外の多様な人々に開かれた「ダイバーシティの街」へと脱皮していくことが都市間競争を勝ち抜く強みにもなる、と田原教授は唱える。(編集部・渡辺豪)

AERA 2023年11月13日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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