アンジェラさんは離婚を決意し、それ以降、母一人、娘一人の母子家庭で暮らしてきた。
ただ、その離婚によって、二人が日本で暮らせなくなる事態が起きていた。在留資格の問題だ。
日本人男性と結婚している間、アンジェラさんには「日本人の配偶者等」という在留資格があった。その娘であるジェニファーにも「定住者」という在留資格が出ていた。しかし、そのいずれもが、離婚によって失効してしまったのだ。日本語の読み書きができないアンジェラさんは、そのことに気付けていなかった。
「日本人男性との婚姻」によって在留資格を得ているという状況は、移民の女性、とりわけフィリピン人女性にしばしば問題を引き起こしてきた。
日本で暮らし続けるためには、夫との関係を良好に保たなければならない。移民に対する偏見が根強い日本の社会では、日本語の不自由な移民女性が就ける職は限られ、夫への経済的な依存からも逃れられない。その偏った力関係が移民女性を従属的な立場に置き、DVを生みやすいのだ。
国籍、エスニシティ、ジェンダー、在留資格、言語、経済力……、いくつもの軸が交差するように社会の抑圧が折り重なり、フィリピン人の母親らは弱い立場に置かれてきた。