あらゆる業種で情報発信が行なわれ、ビジネススキルとして必要性が高まっている「編集」。ひとつの言葉から連想できる言葉を伝えていく「連想ゲーム」にその本質が詰まっているというのは、編集工学研究所所長の松岡正剛氏だ。『[増補版]知の編集工学 』 (朝日文庫)から一部を抜粋、再編集して解説する。
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「リンゴ→赤→血→けが→スポーツ→野球→ドーム→日本一→桃太郎」。この連鎖で何がおこっているかというと、私たちは「リンゴ」と「赤」という言葉どうしを直接に結びつけているのではなく、〈単語の目録〉と〈イメージの辞書〉と〈ルールの群〉とを動かして、次々に“関係”を繰り出しているのだ。
そこには、言葉の記号レベルではあらわれてこない「連想的な情報連鎖」がおこっている。「リンゴ」から「赤」へ、「赤」から「血」へ、「血」から「けが」へ連鎖が進むのは、そのつど「受け」と「放ち」のスイッチが点滅したからだ。
なぜそんなことができるのだろうか。そういうふうにアタマの中にも点滅がおこるからだ。
誰にも見当のつく例でいうなら、眠りにつく前のベッドの中でなんとなく何かをおもいうかべているとき、私たちは言葉を発しようとしていないのに、次々に言葉やイメージやシーンなどを勝手におもいつく。おかげでなかなか眠れなくなってしまうのだが、そこで何がおこっているのかといえば、〈単語の目録〉と〈イメージの辞書〉が勝手に動き出したのだ。その勝手な動き出しの、もっと過激な自由行動が、夢なのである。夢の中では、たしかに情報連鎖としかいいようのない“関係”の動きが感知されるはずである。これは〈ルールの群〉のほうの箍がゆるんだせいだった。