性被害に遭った時の相談先は、各都道府県に「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(♯8891。全国共通)」などがある。同センターでは相談のほか、病院の紹介やカウンセリング、警察への届け出など包括的なケアが1カ所で受けられる。
起きたことは消えてなくならないが、傷ついた心は回復できる。PTSDは研究が進み、有効性が認められた治療法がいくつかある。精神科医で性暴力被害者の支援に携わる、武蔵野大学副学長で教授の小西聖子(たかこ)さんは、「一律に心のケアを押し付けるのではなく個々に応じた対応が必要」とした上で、「PTSDの治療には認知行動療法がもっとも効果がある」と話す。
「もっともよいとされている認知行動療法の治療で共通するのは、トラウマ記憶に焦点を合わせることです。トラウマについての認知を再構築し、恐怖や苦痛の感情をともなったコントロールできない記憶を、コントロールできる普通の記憶にします。自己評価や危険の認識についても回復を図ります」
助けてくれる人はいる
小西さんが実践しているのは「持続エクスポージャー療法(PE療法)」と呼ばれる認知行動療法だ。患者が避けていたトラウマにさらされる曝露(ばくろ、エクスポージャー)の作業を繰り返し、治療者と話し合いを重ねて恐怖を乗り越える。週に1度の治療を10週から15週程度おこなうことで、80%近い人が改善する。
ただ、特に地方では、認知行動療法に長(た)けた専門家の数が圧倒的に少ないのが現状だ。小西さんは、国の医療体制の構築が今後の課題だとした上で、性被害をなくすには「社会的認識を変える必要がある」と説く。
「例えば、地震による津波で子どもを失った親が『子どもが亡くなったのは私のせいです』と言ったら、誰もが『あなたのせいじゃない』って言います。しかし、性暴力は違います。被害者が悪いと言われます。そういう社会的な認識を変えるには、性暴力の実態がもっと知られていくことが大切。そして、性被害に遭っても『自分のせいじゃない』と思え、『ヘルプ』と言える社会にしていかなければいけません」
長江さんは、今、性被害に遭い苦しんでいる人にこう呼びかける。
「あなたが悪いことをしたわけではなく、悪いことをされた被害者です。自分一人で抱えていくには重すぎます。それくらい理不尽なことをされたのです。苦しかったら声をあげてほしい。近くにいて信頼できる人に話をしてほしい。きっと助けてくれる人はいます」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2023年10月30日号より抜粋