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 性被害に対する誤解や偏見が、苦しんでいる被害者に追い打ちをかける。傷ついた心の回復に必要なのは何か──。被害者の心のケアに当たってきた、識者が解説する。AERA 2023年10月30日号より。

【画像】子どもにかかわる職業に就き性加害を繰り返しているケースがこちら

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 性被害に対する誤解や偏見は、「強姦神話」と呼ばれる。

 精神看護専門看護師として性被害者らの心のケアに当たってきた、一般社団法人「日本フォレンジックヒューマンケアセンター」副会長の長江美代子さんは、「日本社会にある強姦神話が性被害者をさらに苦しめる」と指摘する。

「嫌なら抵抗できたはず」「挑発的な服を着ていたせいだ」「お前も悪い」「男は性被害に遭わない」……。

 こうした被害に遭うのは被害者に非があるという強姦神話による思い込みや偏見は、さらなる二次被害を招くという。

「被害者は誰にも相談できなくなり、絶望感や無力感に襲われ、つらいPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を紛らわすために酒や薬に依存するようになります」

 子どもの場合は、助けてほしくて周囲に話しても誰も助けてくれなければ、混乱し、大人への信頼感をなくす。自分と他者を区別する心理的な境界線がつくられる前なので、人との距離感が分からないまま再び性被害に遭いやすくなると、長江さん。

「性被害で苦しむ人にとって、世の中は常に危険な場所になっています。特に、教員など信頼していた人から突然の性加害を受けたことで信頼が裏切られ、PTSDの症状としての病的な認知、つまり『世間は常に危険』という、いつも戦場にいるような認知になります」

 心のケアには何が必要か。

 長江さんは、まず自分を理解することが必要だという。自分が抱えている生きづらさは、被害によるPTSDの症状であると理解することが重要だ、と。

「生きづらいのは自分がおかしいからではなく、性被害によるものだとわかれば、治療やカウンセリングを受けることができます。そのためにも、できるだけ早く支援機関につながることが求められます」

家族の心のケアも大切

 さらに「家族への心のケアも大切」と長江さん。

「子どもが受けた性暴力は親の心身にも影響します。私たちの調査では、母親の約2割にPTSDの症状が出ていました。子どもの性被害を自分のせいだと責めたり、周囲からの理解が得られなかったりするからです。一緒にケアすることでの二次受傷に注意しながら、母親もケアの必要な対象として対応します」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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