原点は「冬ソナ」
……と、ここまでが韓流のいわば黎明期。新時代の始まり、韓流ブームの原点に君臨するのは、ドラマ「冬のソナタ」だ。アコースティックなピアノのテーマソングで幕を開ける本作がNHK BS2でオンエアされたのは、20年前の2003年のこと。インパクトは強烈だった。高校時代に事故死したはずの初恋の相手とそっくりな男性が、10年後、婚約式の当日に現れるという、謎めいたストーリー。「記憶喪失」「出生の秘密」など数奇な運命に翻弄されるふたり。そして、何よりも、日本の多くの女性のハートを射抜いたのは、主人公を演じたペ・ヨンジュンという存在そのものだった。
「微笑みの貴公子」こと、ペ・ヨンジュン。1972年生まれ、別名「ヨン様」。演技の経験がほとんどなかったにもかかわらず、94年に大学生同士の恋愛を描いたドラマ「愛の挨拶」で主演に抜擢されてデビュー。2年後、兄弟が同じ女性を奪い合うドラマ「初恋」が65%の驚異的な視聴率をマーク。韓国での人気を不動のものにする。「冬のソナタ」が現地で放送されたとき、ペ・ヨンジュンは29歳。当時の感覚では、アイドル的な人気を博すにはやや円熟した年齢といえるかもしれない。そもそも「冬のソナタ」は日本をターゲットにしたわけではなく、むしろ先に韓国ドラマブームが起きていた中国市場を狙ったものだったともいう。
それなのに、なぜ。
ヨン様に初恋の彼重ね
20年前の熱気の源をあらためて探るべく、BYJコーラスの練習場所を訪れた。ペ・ヨンジュンのイニシャルを冠するコーラスグループは、毎月1回東京都内で集まり、18年前からペ・ヨンジュンが主演したドラマや映画の主題歌などを歌い続けている。この日来ていたのは、26人。平均年齢は70代後半だ。
「オーラを見ました。到着ロビーの奥の方から、光り輝く感じ」
安藤正子さん(70代)は、成田空港でペ・ヨンジュンを初めて見た日をこう振り返る。ペ・ヨンジュンにはまったのは、「冬のソナタ」を先に見ていた息子に薦められたのがきっかけだった。
「ヨンジュンさんの役がよかった。愛する人のためなら何でもする。やさしさに惚れた。笑顔も、かげりがある表情も」
家事や子育ての傍らにテニスを楽しむ日々で、俳優やアイドルにはまったことなんてなかった。突き動かされるように、パソコンを買って情報をくまなく探し、韓国の撮影現場や彼がハワイにオープンしたカフェにも飛ぶように。間近で目撃したペ・ヨンジュンは、テレビで見るよりも華奢で壊れそうだった。