続く「世界は広い」の痛感(写真:本人提供)

希望の部署は6戦全敗でも「もう逃げない」

 同年10月、東京都大田区の大森事業所の複写機事業部資材部へ配属された。配属先の希望を聞かれ、経営企画、人事、国内販売の順に三つ挙げたが、全く別の事業部で資材の購買担当。約1年後、今度は異動先の希望を尋ねられ、生産企画、生産の運営、購買する品の機能や価格を分析して新製品開発に役立てる価値分析部門の三つを書いたが、資材部に残る。いわば6戦全敗。がっかりしたが「もう逃げない」と思い直し、新機種用の部品調達や工場の立ち上げに参加。「ものづくり」で資材部が持つ重要性を、感じていく。

 この間に、冒頭の下山住職と出会う。入社3年目に資材部の教育担当となり、部長に泊まりがけの管理職研修を企画しろ、と言われた。ここで、「従来通りに」を崩す『源流』へとつながる伏流水が、溜まり始める。

 研修に、2泊3日の座禅会を考えた。前例はない。管理職たちの部品供給会社の社長たちへの口のきき方が悪いし、電話の取り方も悪い。もっと人間的に振る舞ってほしいし、自分をみつめ直す時間が足りないのではないか。そういう時間をつくってあげないと、後輩たちの手本にはなれない。そう思っていたので、座禅を選ぶ。

 住職は30代半ばで「一流の人を研究している」と言って、仕事漬けの自分の周りとは違う。29歳で結婚するまで2カ月に1度くらい、仕事がしんどいときなどに座禅を組みにいく。住職と会話もなく、ただ一緒に座っていると「つまらないことで悩んでいたな」と落ち着く。

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