社長就任の内定時に、「問題は現場で起こって、その答えも現場にある。会議室では解決できない。これからも現場を大切にする会社に」と宣言。いまも同じ思いだ(撮影/狩野喜彦)
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 日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA2023年10月23日号より。

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「一流の人間とは、何か? どうであれば、一流に近づくことができるのか?」

 20代の終わりに静岡県沼津市の大中寺で座禅をしたとき、下山光悦住職から「一流の人間」について話を聴いて以来、こんな思いが頭から離れなかった。

 1999年半ば、英国イングランドのテルフォードにある生産拠点・リコーUKプロダクツの管理部長として5年目を迎えたとき、東京の本社で複写機事業の責任者だった上司に送った「怒りのメール」は、そんな思いが生んだのかもしれない。

 当時、テルフォードで組み立てて欧州・中東で販売した複写機は、デジタル化して様々な機能が可能となり、客に歓迎された。ただ、ファクスやホチキス止めなど30種にも及ぶ機能は本体になく、ユーザーが選ぶオプション。いずれもサービスマンが複写機を設置するときに、現場で付け加える。その作業に、1カ所で3時間を超える例がある、と聞いた。工場で1台を組み立てるのに3時間。それと並ぶ作業時間は、おかしい。

「おかしい」と思ったら、放っておかないのが山下流。サービスマンたちの意見を、聴きに回った。ただ、サービスマンたちからみれば、相手は日本の親会社からきた幹部。率直に苦情を言えば「本社批判」となりかねない。そこを織り込んで、雑談をしながら、笑顔を交ぜて、本音を言わせていく。

現場の苦労から「変革」を求めて新機種に反映

 現場の苦労は、予想以上だった。複写機の中の狭い空間にオプション用の部品とドライバーを差し込み、取り付けていく。落とすと、他の機能部品の上に落ちて、故障の原因になりかねない。慎重に作業するから時間がかかり、身も気持ちも疲れ果てる。「オプションの取り付けが多い仕事は、いきたくない。そんな時間があれば、営業に回ったほうがいい」という本音も聴き出した。

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