「一流でないと一流は集まらぬ一流になれ」

 結婚したころ、「一流を研究すればするほど、一流でなければ一流の人は集まってこない、と分かった。あなたも、とにかく一流にならないと、一流の人に付き合ってもらえないと思いなさい」と言われた。それからの仕事のなかでいろいろな人とチームを組むと、「器が大きくて人間力がある人のところには、やっぱり、こういう人が集まるのか」という経験をして、「なるほど」と思う。大中寺にはその後も訪ね、座禅はしないが、いろいろ話を聞いてきた。

 2017年4月に社長就任。1月の内定記者会見で隣に座って紹介してくれたのは、テルフォードから「怒りのメール」を送った近藤史朗氏。2代前の社長で会長だった。近藤氏は「私がリコー全体の70%の売上高を担当していたとき、英国を担当していた山下氏が怒りのメールを送ってきた。デジタル複写機のオプション数が多く、現場が困っていると指摘し、工場で客ごとに組み込む仕組みを構築してくれた」と披露した。やはり、あのメールを正面から受け止めてくれていた、と頷く。

 抱負を問われ、思わず出た言葉が「常識や前例にとらわれずリコーを再起動していきたい」だった。これも「従来通りに」の否定、準備していた発言ではない。この4月に社長の座を譲って会長になったが、これは、まだまだ言い続けるつもりだ。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2023年10月23日号