劇団の稽古場で大和は鈴子に、「ねー、あなたたちのミスで、一番迷惑被ったのは誰だと思う?」と尋ねる。「それは、やっぱり、橘さん」と鈴子。大和は現下に「違う」と返す。お客さまだ、と。現実から離れたくて劇場に来ている観客に、一瞬でも現実を感じさせるのはプロではないと言い、次の質問をする。「あなた、どうして踊るの?」。

 鈴子は「どうして?」と反芻したあとに、「踊りたいから」と答える。大和は「その先を、これからは考えていきなさい」と言って、帰ろうとする。鈴子はその様子に、こう言う。「あの、ワテ、ちゃうわ、私も踊ってよろしいでしょうか?」。大和は「踊れば」と言い、鈴子の足に靴擦れの跡を見て、紐を渡す。これを足首に巻いて、練習しなさいと。弾む鈴子。

 そうか、「ブギウギ」の進んでいくのは、この方向なんだ。このシーンではっきりした。「踊りたい」「歌いたい」が原点の鈴子が、「お客さま」を意識しながらプロフェッショナルに成長していく。そこに鈴子ならではの前向きな性格が加わって、「笑いあり、涙あり」だけでなく、「歌あり、踊りあり」の明るいドラマになっていくんだ、と。

 鈴子のモデルは、戦後の日本を彩ったブギの女王・笠置シヅ子だ。昭和生まれで昭和の終わる少し前に社会人になった私は、彼女の力強さとエンターテイメント性を何となく知っている。だからなおさらなのかもしれないが、そこに結びつけてくれたのは蒼井さんだった。かっこいいです、強いです、という演技ではないのに、大和というトップスターの覚悟のほどが伝わってきた。それが鈴子という後の大スターの指針になる。一瞬でそう思わせた。

 蒼井さんの声は優しいけれど、強い。顔は寂しいタイプだけれど、意志的だ。そんなことも鈴子との短いやりとりから感じた。初回からの2週間、「ブギウギ」をもっていったのが大和であり、蒼井さんだった。

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