蒼井優さん(撮影/朝日新聞社、2020年)
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 思ったことは口にせずにはいられなくて、正義感があって、優しい。それがヒロイン・花田鈴子(澤井梨丘)。父・梅吉(柳葉敏郎)と母・ツヤ(水川あさみ)はどうやら鈴子と血のつながりはないようだけど、2人とも鈴子への愛情はたっぷり。すごく朝ドラらしい、ヒロインと家族の設定で『ブギウギ』は幕を開けた。

 脇を演じる俳優も、常連(梅吉とツヤが営む銭湯「はな湯」であんまをしているアサ役の楠見薫さんとか)あり、話題の人(「アホのおっちゃん」役が2022年の「エルピス」で話題の岡部たかしさんとか)ありで抜かりない。とにかくウェルメードな朝ドラだ、と分析しながらどうも乗り切れない。それが、10月10日までの<私と「ブキウギ」>だった。

 朝ドラらしい朝ドラだけど、どこにいこうとしているのかよくわからない。そんな気持ちだったのだ。例えば鈴子は、すごく良い子だ。芸者の娘で妾の娘という同級生・タイ子の恋のキューピッド役を勝手に引き受ける。それをからかう男子たちには、体当たりしていく。家が貧しい友だちのために、母に頼んでお弁当を2個作ってもらう。こういう鈴子の性格は何に収斂するのだろう。それが見えない。だから厳しめに表現するなら「直情径行な、いい子」で終わってしまう。

 ところが10月11日、いきなり景色が変わった。梅丸少女歌劇団(USK)の娘役トップスター・大和礼子(蒼井優)が意味を教えてくれたのだ。

 大和はそれまで、台詞を口にしていなかった。バレエの稽古で優雅に踊り、本番前に化粧をし、映画の幕間の公演シーンで白い蝶として歌い、踊っていたが、台詞はなかった。それがこの日、初めて大和が語った。鈴子に語りかけたのだ。

 鈴子たち新人3人が、公演の準備をすべて請け負っていた。ところが男役トップの橘アオイ(翼和希)の衣装の羽を忘れてきてしまう。忘れたのは別の新人だが、度胸が座っている鈴子が「羽がありません」と橘の前に出て報告する。というのが前段だった。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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