店舗を広げていくにはメニューを一品に絞って専門店にする必要があると考えた吉川さんは、好きだったとんかつかラーメンに絞ることにした。その頃、川越にあるラーメン店「清兵衛」の店長と知り合い、ラーメンの話を聞く度、吉川さんの心はラーメンに傾くようになってきた。
そこからラーメンの食べ歩きを始め、自分の好みのラーメンは「煮干し」のラーメンであることに気づく。「イチカワ」「とんちぼ」「伊吹」など、煮干しラーメンの名店を食べ歩き、イメージを膨らませていく。自分が作るなら濃厚なラーメンではなく、煮干しがふわっと香るあっさりしたものを作りたいと思ったという。
こうして、17年に「寿製麺 よしかわ」を埼玉県上尾市でオープンした。知人のやっている酒屋の倉庫を改装し、なんと吉川さんはラーメンを一回も作ったことがなかったのに店をオープンしてしまった。
「今までの経験で料理には自信があったし、仕入れた食材からメニューを考えるような店で修行したこともあったので、食材さえ揃えればおいしいラーメン作れると考えていたんですよね」(吉川さん)
オープン初日はたくさんのお客さんが来て、Twitter(現X)のアカウントを慌てて開設し、宣伝した。だが、集客に味がついていかなかった。最初から自家製麺にし、麺づくり、スープづくりにもトライした。だが、いくら料理業界での修行経験があっても、今までやったことのないジャンル。当然上手くいかなかったのである。
仕入れた煮干しはロットによって塩分が違い、作るたびに味がブレて試行錯誤の日々が続いた。つけ麺を提供したらお客さんから「これで味あってる?」と言われたこともあった。
徐々に味のブラッシュアップをしながら、何が正解か分からないまま店を続けていた。すると、オープンから半年した頃から少しずつお客さんが増えてくる。
「埼玉でじんわりとした煮干しラーメンを提供しているお店がまだまだ珍しかったことが大きいと思います。そこで、『魚』を印象づける戦略に一気に舵を切りました。他の店でやっていないことをやろうと思ったんです」(吉川さん)