AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
日本人には親しみ深い動物・ツキノワグマ。しかしその生態がよく理解されているとはいえない。彼らの「ウンコ」を3千個も採集・分析するという苦難と笑いに満ちた本書は大人も子どもも楽しめる。ツキノワグマの生活のみならず、彼らが図らずも森の生態系の中で果たしている役割も紹介する『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら ツキノワグマ研究者のウンコ採集フン闘記』。自分の「好き」を突き詰めていった結果、研究者になった道のりも興味深い。著者の小池伸介さんに同書にかける思いを聞いた。
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ツキノワグマ(以下クマ)が人間を襲ったというニュースがしばしば流れるのが、我が故郷の岩手県である。今年に入り実家の近所にもとうとう姿を現した。そう小池伸介さん(44)に話すと、
「ああ、東日本の森であればどこでもいます。家のすぐ裏山にいてもおかしくないです」
というコワイ答えが返ってきた。過疎化が進んだ地方では手入れのできない里山が荒れ、森が広がってクマの行動範囲も集落に近づいている。
「都会の人は可愛いクマさんというイメージ、クマが近くにいる地方の人は怖いというイメージ。本当の姿を知っている人はほとんどいません」
そう話す小池さんは学生時代、ひょんなことからツキノワグマ研究に手を染めた。もともと昆虫採集が好きで、山登りの好きな両親の影響から自然に触れる機会も多かった。大学で野生生物を取り巻く環境を学びたいと東京農工大へ。森の野生生物を研究している古林賢恒助教授の指導を受け、卒論は「クマの糞分析」をテーマに選んだ。本書はそれに始まる研究者としてのみずみずしい自伝であり、クマ研究の現在地をわかりやすく伝える入門書でもある。