若い世代のしたたかさ
「日本は今、生きづらい国だなと感じます。政治はずっと動かないし、経済も低調。国力が衰退し、若者は海外に出なくなった。国内で完結してその中の狭い価値観に合わせて生きていくしかない。そういう社会の中で、立ち上がることも知らなければ、怒ることも知らず、ただ隷属するだけ。奴隷根性。これをなんとかしないと……」
思えば、戦後10年たった頃に生まれた伊藤さんの子ども時代は、日本の戦後で最も自由を謳歌できた時期だったのかもしれない。漫画「はだしのゲン」の連載が始まった1973年に伊藤さんは18歳だった。最近、読み返して作品の中に「自由さ」を感じたという。
ただ、今の若者にはしたたかさも感じる、と伊藤さんは言った。そう感じたきっかけはLINEのスタンプだ。伊藤さんに「奴隷根性」を指摘された学生たちは、「かしこまりました」を「かしこまり」と縮めた、ポップでどこか茶化したようなスタンプをLINEに貼るようになったという。
「この子たち、体制にのまれているだけじゃなく、そこから逃げるための遊び心も備えている、結構したたかだなと。今の学生は褒めると、どんどん自己表現に目覚めます。そうした変化に何度も接して、この子たちはすごいって思いました。もともと持っている個性や能力はアメリカの子たちと全然変わらない。単に『自分の出し方』を知らないだけ。それを引き出してあげるのは大人の役割なんだと思います」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2023年10月9日号