「かしこまりました」「○○させていただきます」──。「へりくだり過ぎ」な言葉がまん延する世の中って息苦しくないか。詩人の伊藤比呂美さんと一緒に考えてみた。AERA 2023年10月9日号より。
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日常生活で「かしこまりました」と相手に言われて、ぎょっとしたり、モヤモヤしたりした経験のある人、いないだろうか。ホテルのカウンターやカスタマーセンターに問い合わせた時だけでなく、仕事のやりとりでも時々出てくる。その都度、「いや、そんな意地悪してないはずだけど……」と弁解したい気持ちになる。「丁寧」や「礼儀正しい」のとも微妙に異なる、こんな「へりくだり過ぎ」な言葉、以前はめったに耳にしなかった。そう感じるのは私だけだろうか。と思っていたら、先日ラジオ番組(8月18日放送のNHKラジオ第1「高橋源一郎の飛ぶ教室」)で、詩人の伊藤比呂美さんが日本人の言葉の使い方をめぐってこんな発言をしていた。
「言う言葉がいちいち自分を卑下している感じ。『〜させていただきました』とか、『かしこまりました』とか。私の学生もLINEで『かしこまりました』って書いてくると必ず私がいじめるの。なんでかしこまるのって。奴隷根性?みたいな感じで」
身を守る「防御スキル」
我が意を得たり。さっそく伊藤さんに取材を申し込むと、快諾いただいた。伊藤さんは2018〜21年、早稲田大学で詩の創作などを教えていた。ラジオ番組で言及した「私の学生」というのは当時の教え子を指す。
「大学で教え始めて3年目の20年、コロナ禍で授業がオンラインになりました。その時、演習クラスのメンバーとLINEでつながってやりとりを始めたんです。すると、学生たちがやたらと、『かしこまりました』と書き込むのが気になって。これって、執事が主人に発する言葉ですよね。今の子たちはこんな言葉を使うんだ、と最初に聞いた時はびっくりして。それで、『あなたは私にかしこまる必要なんてないじゃない』っていちいちつっかかっていたんです。ラジオで『いじめる』って言ったのはそういうことです」
ちなみに、「かしこまりました」を多用する学生に男女の別はないという。伊藤さんにツッコミを入れられた学生たちの反応は様々だった。「そんなこと、初めて言われました」と戸惑う学生もいれば、「面目ない」みたいに照れる学生も。多かったのは、「バイト先で教わったんです」と経緯を説明する学生たちだ。アルバイト先で「接客マナー」として真っ先にたたき込まれるのだという。伊藤さんは学生にこんな疑問をぶつけてみた。
「例えば、カスタマーセンターに電話で問い合わせた時も、かなりへりくだった言葉で対応されるけど、あれって演技過多なんじゃないの」