砂鉄さん(右)と澤田さんとの政治談議は、「プレ金ナイト」のラジオ放送終了後もアフタートークとしてYouTubeでライブ配信され、人気に。配信時間はどんどん長くなっている。「武田砂鉄のプレ金ナイト」TBSラジオ、毎週金曜22:00~23:30(撮影/写真映像部・上田泰世)

 東日本大震災以降、災害に強いという観点から見直されたラジオ。コロナ禍のテレワークで、仕事のお供に聴く人も増えた。多様でパーソナルなメディアは、危機の時代にこそ本領を発揮する。AERA2023年10月2日号より。

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金曜日の午後10時。TBSラジオからパーソナリティーの武田砂鉄さん(40)の落ち着いた声が流れてくる。「武田砂鉄のプレ金ナイト」の始まりだ。

 砂鉄さんの本業はライター。かつて初著書の発刊直後、ブロードキャスターのピーター・バラカンさんの番組に呼ばれたとき、「君はラジオに向いているね」と言われた。子どもの頃から親しんできたラジオは身近で好きだったが、仕事になるとは思っていなかった。それが今は毎週、ラジオで話している。ブースにいる自分を客観視したとき「うわっ、マジか」と感じるという。

「AMラジオの番組リスナーは男性が多い傾向があるんですけど、僕の番組は男女が半々くらい。イベントを開催すると、案外、若い世代が来てくれたりするのも、うれしい喜びですね」

リスナーと近い距離感

「プレ金」は砂鉄さんが気になる社会や政治の話題を語るオープニングから作家や音楽家などとのゲストトーク、本の紹介、TBSラジオ記者の澤田大樹さんと1週間の政治を振り返るコーナーで構成されている。

「ラジオはリスナーと距離が近いと言われますが、『あなたと私は同じ感覚だよね、ハグしよう』という関係ではない。発信側も視聴者も求める目的が明確なテレビやYouTubeの映像媒体とは違う。ラジオは発信側に意図があっても、リスナーのどんな場面に入り込んでいるのか、まったくわかりません。真面目な話のときに、リスナーは鼻をほじっているかもしれないし、料理中かもしれない。受け止める側に自由があるメディアがずっと続いていることが愛おしいし、いまや珍しい存在だと思うんです」(砂鉄さん)

 人との関係性のゆるさは、ゲストトークでも話題の幅を広げている。たとえば、テレビではけん玉名人で知られる演歌歌手の三山ひろしさんが、「プレ金」リスナーには、米やカブトムシを育てたり、裁縫が得意だったり、多趣味さから「遅れてきた夏休み」の人と親しまれている。ラジオ番組だからこそ掘り起こせた人柄の奥行きだ。

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