「澤田さんとの政治トークも、澤田さんが取材で見聞きしてきた情報のなかには、ニュースからこぼれているものがたくさんあります。政治家があの場面で、じつはこんな行動もしていたとか、表情がこんなだったとか。それを伝えていくと、ニュースではわからない政治の場の空気感が想像しやすくなる。ラジオのよさは聞き流す程度でも、自分の好みとは違うかもしれない番組に触れられること。それをきっかけに、頭のなかの淀みがきれいになったり、自分がこういうことを考えているんだっていう発見があるかもしれないと思うんです」(同)

個人の思い反映できる

「内省の時代であること、また多様性の時代であるということ、そして個人の思いを反映できるメディアということ。この三つが今の時代にラジオが受け入れられる背景と考えます」

 TOKYO FM「村上RADIO」のゼネラルプロデューサーの延江浩さん(65)はそう話す。周囲が寝静まった深夜、自分一人だけのために天から囁かれているようなラジオの声に、笑ったり涙したり腹を立てたり、心を揺さぶられる経験をした人は多いだろう。

「中沢新一さんも言っていたように、電波って霊的なんですよ。忍び込んでくるんです。神秘的なところがやっぱ強いんじゃないかな」(延江さん)

 またひとりの発信が何百万という人々を相手にするテレビと違い、話し手と聴き手の一対一の(ような)コミュニケーションができるのも、ラジオの大きな特徴となっている。例えば延江さんがプロデュースを手がける作家の村上春樹氏がDJを務める「村上RADIO」がそれだ。高齢者も聴いていれば、若者も未成年も聴いている。

「一対一、イコール多様性とも言えますよね。春樹さんとラジオの親和性は、エッセイとラジオには共通点が多いところにあるかもしれない。これまで春樹さんがやっていた読者との対話を具現化した感じかな」(同)

 何となくさみしい時、ラジオをつける人は多いという。世の中には明るいことだけじゃなく、黒いところもあれば、グレーなところもある。

「で、そうした暗いところを排除しないのも、ラジオの多様性と言えるでしょうね」(同)

(ライター・角田奈穂子(「プレ金ナイト」)、福光恵(「村上RADIO」))

AERA 2023年10月2日号より抜粋

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