働き方が多様化する時代、会社員だけでなく公務員でも副業に挑戦する人がいる。神奈川県横須賀市の職員の40代男性は、副業をするために起業を決意し市長に直談判した。どんな事情があったのか。AERA 2023年10月2日号より。
* * *
神奈川県横須賀市にある温浴施設「湯楽の里」の売店。高橋正和さん(40)は、ひょうたんのようなカボチャを手に記者に言った。
「地元の野菜を置いてもらっています。バターナッツカボチャは、スーパーにはあまり売っていなくて珍しいですよ」
週末には都心から来た利用客が、野菜を買って帰る。売店としては、市場で仕入れた県外の野菜だけでなく、地元の野菜を販売したかった。そんなとき、高橋さんと知り合い、紹介を受けて、地元の農家とつながることができた。
高橋さんは、ビジネスで地元の課題解決をする一般社団法人「KAKEHASHI」代表理事。そして、本業は、横須賀市役所に勤める公務員だ。公務が休みの日や勤務後に副業をしている。
市長に直談判
市職員でも要件を満たし、市長が認めれば副業ができる。
「横須賀市をもっと良い街にするための手段として、副業をするために起業することを認めていただきたい」
高橋さんは2020年春、市長に、こう直談判した。同市役所では当時、起業して副業している職員はいなかった。安定している公務員だが、決意した理由は「市役所の立場だけでは限界を感じたから」だという。
秘書課にいた頃は市長に同行することが多く、各方面で活躍している市民は、ほぼ知っていると思っていた。だが、現実は違った。市の研修で、今まで関わったことのない人たちに話を聞くなかで、全国を舞台に活躍するトップランナーや、こだわりを持った事業者がたくさんいることを知る。自分が知らなかっただけだった。
トップランナーにどんどん活躍して稼いでもらいたい。そうすれば、少子高齢化が進む横須賀市の税収を上げて、社会福祉に財源を回すことができる──。