「市役所は困っている人に手を差し伸べることはできます。でも、市役所がトップで稼ぐ人たちを理由なく応援するのは、難しいんです」
本業で常にしたいことが100%できるわけではない。
「自分が出世して実現すればいいと言われますが、市の制度が変わるのを待っていたら手遅れになる。でも、今だったらまだできることがある」
だから、本業の枠を超えることにした。最初はボランティアで活動していたが、直談判の結果、同市役所で初めて起業と副業が認められた。
副業は楽しい
たくさんの人に私たちの上を渡ってもらえるような強く大きな橋となり、渡る人の夢や希望をかなえる架け橋という意味を込めて、同僚ら3人とKAKEHASHIを立ち上げた。
例をあげると、英国にも進出しているパティシエのケーキ店の本店が市内にある。地元のカボチャやイチゴを仕入れることができれば、朝の採れたてを昼にはケーキに加工できる。だが、どの農家に頼ったらいいのかがわからない。高橋さんは、地元でこだわりのある農家とパティシエをつなぐことができた。
「ただ、地元と企業をつなぐ仕事では、仲介手数料はもらっていません」と高橋さん。法人を運営するために必要な資金は別で稼いでいる。地元で「自分の赤ちゃんのように野菜を育てている」という農家のカボチャとニンジンを使った、赤ちゃんも大人もおいしく食べられるピュレの製造、販売だ。
高橋さんが副業をするのは休日、そして市の業務の終了後だ。
「家族との時間を犠牲にしてまで副業をしようとは思っていません。1週間副業しないときもありますし、労力や時間は単純に『本業×2』ではありません」
高橋さんは言う。
「正直に言って、本業の仕事は嫌なこととか苦手なこともあります。でも、副業では得意なことしかしていないので、楽しいです。副業を仕事だとは思っていないんですよね」
(編集部・井上有紀子)
※AERA 2023年10月2日号より抜粋