SNSと短歌に親和性があると話す野口さん。「短歌は気持ちを、俳句は情景を乗せやすい。Xには気持ちの方を乗せたいから短歌がブームなのでは」(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

 短歌とSNSの親和性について、歌人の山田航(わたる)さん(40)は「Xは短歌を発表する媒体として以上に、『短歌を介したコミュニケーションの媒体』として使われている面があるのでは」と話す。たとえば短歌を通じてSNSで知り合った人と一緒に、次は短歌の同人誌を作ってみるなど、「つながりを作る機会」にもなっていると言うのだ。

「もともと短歌は、作者の特権性が薄く、作者と読者が同じステージに立っています。ときに読者が作者を超える読みを提示したり、読者が返歌の形でつなげていったり、本歌取り(古い歌の一部を借りて新しい歌を作る)をしたりなど、歌を媒介にして関係性が新しく生まれてくるといったことが当たり前にある文化。つまりコミュニケーションを基盤に置く文学です。その点でも、SNSとの相性は良かったのかもしれません」

俳句は上下関係がある

 短歌人気がクローズアップされがちだが、一方で同じく和歌から派生した文学である俳句の人気はどうなのか。

 全国の高校生が俳句の出来栄えを競う「俳句甲子園」などのイベントは盛況。有名タレントらが俳句を作り、俳人の夏井いつきさんが容赦なく講評するテレビ番組「プレバト!!」の影響もあり、こちらも一昔前に比べると格段に若い層へと人気は広がっているようだ。しかし、短歌と俳句の人気はそもそも質が違うと、山田さんは話す。

「ポイントは、番組では夏井先生が行っている『添削』です。添削できるということはそこにヒエラルキー(階層)があるということ。俳句はたとえば季語をどれだけ知っているかが上下関係をつくる要素になりうる」

 短歌も、かつては古典をどれだけ知っているかというところで先生と生徒のヒエラルキーが存在しえた。しかし、口語短歌が当たり前になった現代短歌は古典に通じている必要がないので、「添削」という行為が成立しにくくなっていると言う。

「従来の先生と生徒、選者と投稿者という上下の関係性が保持されている方が、ショーアップしやすく、テレビなどのオールドメディアには合うでしょう。一方で短歌は、フラットな関係のつながりを大事にし、広げる作り方になっていった。SNSという新しいメディアと親和性が高いことと、無関係ではないと思います」

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