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 テレビ番組で俳句が人気な一方、SNSでブームなのは短歌だ。似ているようで全く趣の異なる両者。短歌vs.俳句の軍配はいかに? AERA 2023年10月2日号より。

【写真】SNSに投稿されたお由美さんの短歌がこちら

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 ああ、短歌ってこんな感じでいいんだ──。

 埼玉県の会社員、野口み里さん(38)は今年1月から短歌を詠み始めた。きっかけはいま注目される歌人の一人、木下龍也さんの歌集を読んだことだった。

「『やめてくれおれはドラえもんになんかなりたくなぼくドラえもんです』という歌に驚いたんです。短歌と言えば百人一首のイメージが強かったけど、現代の言葉遣いで、こんなくだけた表現でもいいのか、すごいな、と。それからX(旧ツイッター)に投稿し始めました」

 短歌を楽しむ人が、若い世代を中心に増えている。歌集の出版も相次ぎ、SNSには「#tanka」「#短歌」などのハッシュタグをつけて新作短歌が続々と投稿されている。

 和歌文学が専門の東洋大学准教授・高柳祐子さん(45)も、短歌の人気を実感する一人だ。

 同大学では1987年から国内外の学生を対象にした短歌コンクール「現代学生百人一首」を毎年開催、高柳さんは選考委員長を務める。

「5年ほど前から応募者が増え始めました。一昨年は初めて7万首を超えるなど、人気の広がりを感じます」

短歌とSNSの親和性

SNSと短歌に親和性があると話す野口さん。「短歌は気持ちを、俳句は情景を乗せやすい。Xには気持ちの方を乗せたいから短歌がブームなのでは」(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

 背景には、コロナ禍もありそうだ。北海道のパート従業員、お由美さん(58)が母親の影響で短歌を始めたのは20歳を過ぎた頃。ここ2年ほどはXに投稿している。

「外で人とあまり会えなくなった閉塞(へいそく)感を、俳句のような季語の制約なく、三十一文字の中で自分の選んだ言葉で自由に表現できる短歌を私は選んだのだと思います。SNSは読んでくれる方の存在も大きいですね。とくにフォロワー以外から『いいね』をもらったときは嬉しい」

 前出の野口さんは、短歌とSNSには親和性があると話す。

「歌人の岡本真帆さんが注目されるきっかけになった『ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし』がSNSで話題になったとき、下の句をたとえば『メールの整理もできやしないし』など自分のずぼらさに大喜利的に置き換えるのが流行(はや)りました。それってSNSっぽい感覚だし、『私にもできそう』と感じさせやすかったと思います」

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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