内田:僕は学生時代、試験の「山をかける」名人として知られていて、同じクラスはもちろん、他のクラスの子たちからもよく訊かれました。知らない学生から電話がかかってきたこともあります。天賦の才能ですから、もちろんじゃんじゃん教えてあげました(笑)。
友だちが大学院を受ける時に、「卒論の出来はよくて、英語も得意だけど、第二外国語のフランス語は教養の時にやったきりで全部忘れてしまった。フランス語の試験さえ通れば合格する。内田教えて」と泣きつかれて、3日間うちに泊まり込んで、朝から晩まで、炬燵に入ってラーメンすすりながら、初級から始めて、中級文法まで終わらせたこともありました。結局、彼は院試には落ちちゃったんですけど、そういう相互扶助のネットワークを形成するのも、大学時代のうちですよね。
白井:十数年前から大学生はそうしたことをやらなくなってきた印象です。私が大学の非常勤講師で教え始めた時のことですが、「社会思想史」の授業の期末試験で若干難しい問題を出しました。ただし、問題そのものは事前に発表していました。この問題を論述で解答してもらいますよと。ところが答案を見たら悲惨な論述が山ほどあった。そこで怒ったわけです。「何でお前たちはきちんと対策をしないんだ。何も自分独りで考えて対策する必要はない。友だちと一緒に模範解答を作って回したっていい。こっちは同じ回答だなと思っても授業で言ったことを正しく反映していたら丸にせざるを得ないんだから。何でお前たちは協働して試験を乗り切ろうとしないんだ」と。
今の学生たちはこういう傾向がますますもってひどくなっています。みんな個人で抱え込んでしまうわけです。
内田:そうですね。どうして相互扶助のネットワークを作らないんだろう。試験を協働で乗り切るというようなごく実利的なことでも、友だちと一緒にやると、結構楽しいんです。遊んでいるようなものです。友だちを作って、一緒に勉強することができる能力だって「学ぶ力」のひとつだと思いますよ。