
声をかけて細かく注文
声をかけるか、それとも声をかけないで撮るかは、その日の気分によって変えた。
「それを最初に決めないと撮れない。歩く速度も結構、変わってきますから」と、ERICさんは説明する。
声をかけないときは、少しずつ相手との距離を詰め、写す際は一瞬で撮影する。
「ほんと、1秒もかけないくらい。それで問題が起きたことはほとんどないですね」
一方、声をかけて撮影する際は、相手に細かく注文をつける。
「無表情で、クールな感じで撮りたいんです、とか話しかける。その間に何枚か撮影する。それから、斜めを見て、とか言って、目線を調整する」
街を歩き、見つけたシーンを相手に再現してもらうのも好きだという。例えば、キッチンカーを背景に2人の女性が座っている写真がある。
「1人はアイメイクをして、もう1人は何かを食べている。これは声をかける前に同じことをしていたんです。それをもう一度再現してもらって、背後の人のバランスや距離にも気を配り、シャッターを切った」
撮影を終えると、「この写真は写真展と写真出版物を作るのに使わせていただきます」という内容の承諾書に署名してもらう。
さらに後日、撮影した写真を写した人に送った。
「今の若い子はみんなインスタグラムを使っています。なので、インスタを使ってデータで写真を送る。高齢者の場合は、住所を書いてもらって、プリントを送りました」

すごく緊張感があった
コロナ禍の記録として東京の街を撮影した写真家はいたが、あえてコロナ禍でスナップ写真を撮ろうとした人は少ない。
「コロナ禍の真っただ中によく撮ったと思います。すごく緊張感があった。でも、すごく面白かった。マスクをしているから面白いところもあるんじゃないかな」
そう言いながら、猫がらの洋服と猫の顔がプリントされたマスクを身につけた女性を指さす。
「こういう人も探せば見つかるんですよ。それまでは街にたくさん人がいるなかで撮影していたけれど、人がいなくても引き締まった空間をどうすればつくれるか、みたいな挑戦もあった。だから、ぼくとしては撮影にハマったし、撮影が終わると一つステップアップした感覚があった」
そうやって撮影したスナップ写真は、声をかけて写したのか、否か、まったく判別がつかない。
ERICさん自身も「声をかけて撮影した写真は、そうでない写真とそれほど差がないんじゃないかな」と言い、「新しいテイストのスナップ写真の可能性みたいなものを追った1年間でした」と振り返る。